心のこと 東東京 美味しいお店

喫茶あかねで思う、空間とハンバーグと信頼

LINEで送る
Pocket

喫茶あかね

喫茶あかねという喫茶店がある。
ここがどういう喫茶店かを説明するのは難しい。

もちろん情報を伝えることはできる。
所在地は、東京都台東区浅草。定休日は日曜祝日と第2土曜。
30人も入らない、小ぶりのお店だ。

広告

あかねの雰囲気

しかし、あかねはどういう雰囲気の店かと聞かれると、いつも困ってしまう。
魅力がないため言葉を濁しているわけではない。
むしろ魅力的で、何度も通っている。
ただあの雰囲気は、一言で語れるようなものではないのだ。

ミルクセーキの王道をいく美味しさ

あかねを語る時によく使われるのは「昔ながらの昭和の喫茶店」という言葉だ。
この言葉は、もうすぐ開店40年を迎える喫茶店のある一面を正確に表している。
ただ、あかねのマスターは、そこを意識しているわけではなさそうだ。
もし昭和の喫茶店を目指すなら、テーブルをインベーダーゲーム、もしくは麻雀ゲームに変えるだろう。
それが似合いそうな店構えではあるが、あかねにはそれはない。
代わりに客がカードゲームを持ち込んで遊んでいる。

マスターの後ろのグラスや食器が並んでいる棚に、置物が置かれている。
そのチョイスや並べ方からコンセプトが窺い知れるかと思いきや、それも読み取れない。
まるで北海道の熊の木彫りと沖縄のシーサーが並んでいるかのような脈略の無さで、もう何度も見ているのに何が置いてあったか思い出せないほどなのだ。
強いて言うなら、おばあちゃんの家のテレビ台である。
干支の置物数年分やこけしが並んでいるような、あのテレビ台だ。
かといって、あかねがおばあちゃんの家のような雰囲気を目指しているのかというと、そうでもなさそうである。
おばあちゃんの家のようにくつろげはする。でも、だらけることは許されない、そんな見えない一線がきちんと存在しているのだ。

漫画がたくさん置いてあったり、マッチのデザインがかわいかったり、そこここにお店の個性がにじみでているのだが、どれもこれも、あとから付け加えられたような佇まいで、どうにも一貫性がない。
そのバラバラなディティールが、絶妙なバランスで積み上がっている。
この一見不安定そうな上に成り立つ安定感があかねの魅力なのだが、いくら言葉を尽くしても、あの雰囲気を語りきることができない。

 

あかねのご飯

あかねの最大の魅力は、そのメニューにある。
スパゲッティ数種、豚の生姜焼き、ハンバーグ、ランチメニューの焼き魚…、あかねの食事メニューは豊富だ。
出来合いのものではない。注文を受けてから、マスターがジュージューと調理をし始める。
周りがサクッとして、中がふわっとしているハンバーグは絶品だ。

米は栃木県大田原市の農家まで直接買い付けに行き、それをガス釜で炊き上げる。
生姜焼きの生姜はオーガニックだ。
こだわって、丁寧に作られた料理はもちろん美味しい。
喫茶店の店構えなのに、料理が本格的で美味しいというアンバランスさが、更にあかねの魅力の謎を深める。

ハンバーグ。ソースは3種類から選べる

カレーの乗ったスパゲッティ。このボリュームはパーティー用

あかねへの信頼

あかねにホットケーキはあるだろうか

ある日、私は、日本一美味しいと言われるホットケーキを探しに歩いていた。
歩きながら、そういえばあかねでホットケーキを食べたことがないことを思い出した。
そもそも、あかねにホットケーキはあっただろうか。

もしあるとしたら、それはどんなホットケーキだろう。
あのマスターなら、厳選して選び抜いた小麦粉と牛乳と卵を使ったホットケーキを作るかもしれない。
逆に、森永のホットケーキミックスを「僕の子供の頃の思い出の味なんです」と飄々とした口ぶりで出してくることも、大いにあり得る。

どちらでもいいな、と思った。
あかねのマスターが作るホットケーキなら、どちらでもいい。
こう思いついて、私があかねに寄せている信頼の大きさに驚いた。

お店に対する信頼というのは、「あの店に行けば何か美味しいものが食べられる」という期待の度合いによるものだと思っていた。
しかし、あかねのマスターが作るホットケーキであれば、市販のホットケーキミックスで作られたもので構わない。
家で同じものが作れるとしても、あかねのマスターが作ったホットケーキを食べたいのだ。

 

信頼を超えた信頼

こう思う気持ちは何だろう。
いろいろなシチュエーションを考えてみた。
マスターが私の家にホットケーキミックスを持ってきて作ってくれても少し違う。
厳選された小麦粉持参でも同じだ。
あかねのあのカウンターで、マスターがホットケーキを焼いているところを見たいのだ。
一生懸命に箱の裏側の作り方を見ながら焼いていてもいい。
あのアンバランスな安定感の中で、マスターが生み出すホットケーキを食べたいのだ。

私があかねに通うのは、あかねに行けば美味しいものが食べられるだけが理由ではなく、あかねのマスターが作ったものをあかねの雰囲気の中で食べると更に美味しくなると気づいていたからだったのだ。
どれだけ私は、あかねのマスターとあかねのことを信頼しているのだろう。

私もこういう風に信頼される人になりたい。
私ならうまくやってくれる、という信頼の更に上にある、私がやるならどういう結果でもうまくいく、という信頼だ。
よくプロ野球で「アイツが打たれたのならしょうがない」と言われる、ああいった信頼だ。

 

さて、あかねのメニューにホットケーキはあるだろうか?
あってもなくても、どちらでもいい。
あかねがあかねであること、それがあかねの魅力なのだから。

 

喫茶あかねとは

東京都台東区浅草7-6-5
03-3873-6406
定休日:日曜、祝日、第二土曜
営業時間:7:00~20:00


※初稿では、お米の産地を茨城と書いていましたが、栃木県の誤りでした

広告

関連コンテンツ

-心のこと, 東東京, 美味しいお店