イスラム料理?謎の「ザッジ」は食べ物か否か
ドバイ空港にて
もう4年前のことになる。
初めてエミレーツ航空の飛行機に乗った時の話だ。
当時、エミレーツでは乗り継ぎ時の待ち時間が4時間以上かかる時はミールクーポンがもらえた。
パリへのフライトにエミレーツを利用した私は、ドバイでこの条件に該当し、ミールクーポンをもらうことができた。
使えるお店一覧を見ると、マクドナルドといった見慣れたお店の名前が並ぶ中に、一件見知らぬアラビア料理屋があったので行ってみることにした。
アラビア料理屋
早朝5時前にも関わらず、アラビア料理屋は7割くらいの埋まり具合。人気だ。
ただ、しかし。
そこで食事をしている客は、全員、白い布で身体と頭を覆っている。
ジーンズにスニーカーというアメリカナイズされた格好をしている我々は明らかに場違いだ。
ここは大人しく引き下がって、客が少なくなった頃を見計らって出直すことにした。
さて、彼ら彼女らが食べ終わったであろう頃に再訪問。
客は8割がた引き、まだアウェー感が若干残っていたが、思い切って店内に入った。おずおずと進みながら、店員にミールクーポンを見せる。
店員1が我々のミールクーポンに目を通し、「あー、ミールクーポン。ちょっとー、クーポンの客が来たよー」と、気怠そうに他の店員に呼び掛ける。
店員2がのんびりやってきて、こう言う。
「ミールクーポンは、オムレツとコーヒーか紅茶、もしくは、※○§+*」
最後の一言が聞き取れず聞き返す我々に、店員2は面倒臭そうに答える。
「オームーレーツーとー、コーヒーかー紅ー茶ー。もーしーくーはー、ザッージー。」
いかにも歓迎せざる客といった対応に、これがアウェーの洗礼かとひるみながらも、聞き慣れぬ単語に食いつく我々。
「ザッジ?それ何ですか?」
「えーと…」と店員2はどう言えばいいんだ?としばらく悩み、「いいや、こっち来て。見せるから。」と手招きをした。
「これ(薄いパン)をこれ(石でできた丸い板のように見えるホットプレート)の上で温めて、これ(ハム)とこれ(チーズやソース)を入れて、巻いたもの」
見慣れぬ料理だ。これがアラビア料理か!
感激した我々は興奮気味に店員に叫ぶ。「おおー!ザッジ!ザッジがいい!」
その瞬間、我々を取り巻いていたアウェー感が消え去った。
店員2は驚いた顔で「え?ほんとに?ザッジ食べるの?おーい、この2人、ザッジを食べるってー!」と他の店員に呼びかけた。
店員3がやってきて「ザッジを食べるのかい?ターキーとビーフがあるけど…、わかった、1つずつ作るから席で待っててよ」と言い、店員4は「さあさあ、こっち来て、ここに座って。」と椅子を引いてくれた。
今まで我々を見なかったふりしていた店員たちが寄ってきて、いろいろと世話をしてくれる。
ほどなくして出てきたザッジは、さっぱりしていて、ターキーとチーズが良く合い、とても美味しかった。
店員2がやってきて「アラビア料理は気にいったかい?そうか!良かった!」と満面の笑みを見せてくれた。
他の客は…
我々が食べ終わる頃には、白い布をまとった人は皆消え去り(メッカ近くの都市へのフライトの出発時間が来たのだ)、他の客は欧米人になっていて、アウェー感は無くなっていた。
店を出がてら、他の人が食べているものを見て驚いた。
オムレツ!あっちもこっちもオムレツ!
中にはサラダ等、クーポン以外の料理を頼んでいる人もいたが、誰もザッジは食べていなかった。
皆、朝食はいつもの習慣を崩したくないと思うのだろうか?
せっかくドバイまで来てアラビア料理屋に入ったのだから、あえてオムレツを選ばなくてもいいのでは、と思うのだが、そうではないようだ。
我々がザッジを頼んだ時の店員たちのあの喜びようの理由がわかって、少し切なくなった。
旅の理由
食は、その土地の文化を色濃くあらわすと感じている。
だから、旅に出る時は、日本国内であれ海外であれ、その土地の料理を食べるようにしている。
その土地でしか食べられないものを、その土地の人が好む味付けで食べたいという私の好奇心がそうさせているのだが、これはその土地の人と打ち解ける行為でもあったようだ。
インターネットがあるおかげで、世界各地の風景は写真ですぐに見ることができる。
しかし、街の雑踏の音を聞き、空気の匂いを嗅ぎ、食べ物を味わい、人の感情に触れることは、その場所にいかないと体験することができない。
これこそが、旅をする理由だ。
五感をフルに活用させてこその旅なのだ。
ザッジの謎は残る
ところでザッジとは、なんだったのだろう。
googleで検索しても出てこないので、結局我々は店員が何といったのか聞き取れなかったか、ザッジは料理名ではなく他の何かだったという結論になる。
その後、あのアラビア料理屋はミールクーポン対象外のお店になったので、ザッジの謎は解けないままである。