面白い話の作り方。相手の脳を刺激して、面白いと思ってもらうためのポイント

前回の記事では「読みやすい文章」について書いたが、読みやすい文章にしたからといって、それが面白いとは限らない。
面白い話には違うコツが必要になる。
面白い話のコツとして言われるのが、「ヒーローズ・ジャーニー」である。
ヒーローズジャーニーとは、「日常生活→冒険の誘い→苦難発生→師匠や仲間登場→主人公の成長→苦難の克服→帰還」という流れのストーリー展開を指し、この流れに沿った話は面白いと言われている。
実際、多くの小説や映画がこの形式に沿って書かれている。
では、冒険に出ないと、面白い話にならないのだろうか?
ここでは冒険に出なくても、読み手の脳に興味を持ってもらえる話の構成について書いていく。
ヒーローズ・ジャーニー関連本
この『千の顔を持つ英雄』は、数多くの神話を読み解き共通パターンを見出すことで「ヒーローズジャーニー」を解説している本である。
ジョージ・ルーカスが『スターウォーズ』に至るインスピレーションを得た本として知られている。
この本自体はヒーローズジャーニーとは無関係の構成で書かれているのもあり読みづらい部分があるが、ヒーローズジャーニーについて一番詳しく解説された本ではある。
面白い話のコツ:脳内の情報を意識する
突然だが、下記の会話を読んで欲しい。
これは2018年に我が家で交わされた会話である。
私は毎年自分の誕生日に野球を見に行っており、それについての夫婦の会話である。
[box class=”box2″]
夫「今年の誕生日、どうする?」
私「迎祐一郎のユニフォーム着たいな」
夫「じゃあ、俺はブーマー着るね」
[/box]
どうだろう、全く意味がわからない人がほとんどだろう。
解説しよう。
2018年の誕生日で、私は44歳になった。(情報1)
この年の私の誕生日には広島カープvsオリックス・バファローズの試合が組まれていた。(情報2)
広島カープにはかつて背番号44をつけた迎祐一郎という選手がいた。(情報3)
オリックスにはかつて背番号44をつけたブーマー・ウェルズという選手がいた(情報4)
つまり、この会話の意味はこうだ。
[box class=”box2″]
夫「今年の誕生日どうする?」
私「44歳になるから、背番号44のユニフォーム着たいな」
夫「じゃあ、俺も付き合うよ」
[/box]
情報1〜4を添えることで、夫婦でお揃いの背番号44のユニフォームを着ようとしている惚気話だということが伝わったのではないだろうか。(こんなところで惚気けてすみません)
相手の脳内情報
相手に自分の思いを伝えるには、相手の脳内にそれを理解するための情報が備わっていることが重要である。
古くからの友人や趣味の仲間との会話がスムーズに進むのは、お互いの脳内にある情報が似通っているからだ。
情報レベルが違う場合、相手が持っていない情報は何かを予測して、足りない情報を補う必要がある。
もし上記の会話を私の小学校の同級生に話す場合は、情報1は不要だろう。
「今度の誕生日、広島vsオリックス戦があってね、私は迎っていう広島の背番号44の選手のユニフォーム、夫はブーマーっていうオリックスの背番号44の選手のユニフォームを着て、試合を見に行くんだ!」と言えば、
「44歳だもんね!」と返ってくるはずだ。
一方、野球仲間に話す場合には情報3と4は不要だ。
「今度の誕生日で44歳になるから、広島vsオリックス戦を迎とブーマーのユニフォームで見に行くんだ!」と言えば、
「44繋がりか!」となるはずだ。
ここで重要なことは、相手の脳内の情報を予測することである。
脳は、自分がわからない情報を延々と聞かされることを苦痛に感じる。
しかもワガママなことに、自分がわかっている情報を延々と聞かされることも苦痛に感じる。
不足分と補う分がピタリと合った時、脳はその話をストレス無く受け取ることができる。
文章を書くときに、ターゲットを決めることが大切だと聞いたことがある人は多いだろう。
これは、ターゲットを決めることで、補う情報量を決めることができるからである。
万人向けに文章を書こうとしても、人によって不足している情報は様々なので、補う情報も散漫になり、誰の脳にもピッタリ当てはまらない文章になってしまうのである。
情報を出すタイミング
情報の補い方には2種類の方法がある。
例えば、主人公が猫を飼っていることを示したい場合、どういうやり方があるだろうか。
1つ目は、言葉で説明する方法だ。
[box class=”box2″]私、魔女のキキです。こっちはクロネコのジジ[/box]
2つ目は、読み手に予測させることだ。
[box class=”box2″]
サザエ「タマ〜、タマ〜!」
タラオ「タマ〜、どこでしゅか〜?」
白い猫「にゃーん」
カツオ「タマ!こんなところにいたのか!」
[/box]
言葉で説明する方法
言葉で説明する方法のメリットは、話が早いということである。
連載漫画の第1話で、登場人物が次々と出てきて自己紹介をするパターンがある。
これをすると、2話目からはスムーズに話を進めることができる。
しかし、デメリットもある。
例えば、この紹介文はどうだろう。
[box class=”box2″]私、魔女のキキです。こっちはクロネコのジジ。そして両親のオキノとコキリ。友達のトンボ。お世話になっているおソノさん。近所に住んでいるマキさんと、マキさんのネコのリリー[/box]
人の脳には限界があるので、次から次へと紹介されても覚えることはできない。
読み手に予測させる方法
言葉で説明せずに読み手に予測させる方法のメリットは、読み手の印象に残りやすいということだ。
説明する方法はどうしても名詞の羅列になりがちだが、読み手に予測させるためにはストーリーが必要になる。
ストーリーが伴うと、記憶のしやすさは格段にアップする。
デメリットは、一つ一つストーリーを作り上げると長くなるということだ。
本題に入る前の前段部分があまりに長いと、読者は飽きる。
2つの方法の使い分け
言葉で説明する方法にも読み手に予測させる方法にも、それぞれメリットとデメリットがあるため、両者の使い分けが重要となる。
私が例に出した『魔女の宅急便』では、最初に主人公キキと飼い猫ジジを説明し、ストーリーへの導入をスピーディーに行っているが、他の登場人物は主人公との関係をストーリーで見せつつ、適宜紹介を加えている。
次に例に出した『サザエさん』は長期間の連載アニメのため、登場人物の関係性が予測できるエピソードをあちこちに盛り込むことで、説明が過剰になることを防止しつつ、記憶に定着しやすいようにしている。
(例:フネとお軽さんが垣根を挟んでお喋りをすることで隣人関係を示す、伊佐坂先生は今のこの時代でもFAXもメールも使わないためノリスケの職業が視聴者に見えやすくなっている)
主人公については、言葉で説明したとしても、繰り返し登場するので記憶に残りやすい。
時々しか登場しない人物は、エピソードで説明したほうが記憶に残りやすい。
しかし、記憶に残す必要がないほど滅多に登場しない人物については、長々とストーリーで説明するより、言葉で説明してあっさり通り過ぎてもらうほうが、スムーズに話が進む。
読み手のどのレベルの記憶の定着を求めるかによって、言葉で説明するか、ストーリーで説明するかを選び分けるといい。
面白い話をするためのコツ
ここまでの話は、面白い話のコツというよりも、話をつまらなくしないためのコツである。
面白い話にするためには、もう一つ脳の働きに頼る必要がある。
まずは、夏の1日を想像しつつ、次の枠内を5秒間見つめてほしい。
[box class=”box2″]
今日のお昼はお好み焼きだよ!
それにしても、暑いなあ…。
[/box]
※写真はPhotoAC様の無料画像を使用しております
脳は情報を解釈したがる
私は「見つめてほしい」としか言わなかったが、脳内で悲惨な事件が起きた人もいるのではないだろうか。
悲惨な事件が発生した人の脳内では、こういうことが起きている。
・「お好み焼き」という言葉を見る→鰹節の写真を見る→脳内のお好み焼きに鰹節をかける
・「暑いなあ」という言葉を見る→扇風機の写真を見る→脳内の扇風機にスイッチを入れる
・舞い散る鰹節!!!
このように、脳には手元にある情報を繋ぎ合わせてストーリーを組み立てたがる特性がある。
脳が面白がるポイント
脳が面白がるポイントも、情報を繋ぎ合わせるところにある。
面白がるポイントは、2つだ。
1.ストーリーを作る過程
2.答え合わせ
先程、脳は、自分がわからない情報を延々と聞かされることを苦痛に感じるし、わかっている情報を延々と聞かされることも苦痛に感じると書いたが、この理由はここにある。
自分がわからない情報はいくら与えられても繋がりが見えないため、苦痛である。
そして、わかっている情報は、すでにストーリーを作りきっているので、苦痛である。
つまり、脳は、繋がりが見えるレベルの新しい情報を与えられ、ストーリーを組み立てる時間があり、ストーリーの答え合わせができたときに、面白いと感じるのだ。
実践
これまでの話を振り返りつつ、冒頭の野球観戦の話に戻る。
あの話を理解するためには、次の4つの情報を補う必要があった。
2018年の誕生日で、私は44歳になった。(情報1)
この年の私の誕生日には広島カープvsオリックス・バファローズの試合が組まれていた。(情報2)
広島カープにはかつて背番号44をつけた迎祐一郎という選手がいた。(情報3)
オリックスにはかつて背番号44をつけたブーマー・ウェルズという選手がいた(情報4)
では、私があの会話を、私のことも野球のこともあまり知らない人に説明するには、どうすればいいのだろうか。
言葉で説明するか、ストーリーで説明するか
まず、情報の伝え方を決める。
この4つの情報であるが、聞き手にすぐに忘れてもらっていい話なので、言葉で説明することにする。
説明する順番
次に、説明する順番だ。
聞き手の脳内を覗きながら話をしよう。
[box class=”box2″]
私「広島カープに背番号44の迎祐一郎という人がいたの」→聞き手の脳内(へ?誰それ?)
私「オリックスに背番号44のブーマーという人がいたの」→聞き手の脳内(また44だ。全球団の背番号44を聞かされるの?)
私「私の誕生日に広島vsオリックス戦があってね」→聞き手の脳内(ん?44の話は終わったのかな?)
私「今度の誕生日に44歳になるから、迎とブーマーの背番号44のユニフォームを着るの」→聞き手の脳内(なあんだ、そういうことか)[/box]
脳は与えられる情報に繋がりを見つけようとする。
なので、最初に背番号44の選手の話が2人分出てきた段階で、他の背番号44の選手に意識が向く。
そこで、誕生日に広島vsオリックス戦がある、という全く無関係の情報が入ってくるので、脳は混乱する。
脳は混乱すると苦痛を感じる。
最後に答え合わせが行われはするが、脳はそれまでに繋がりを見つけられていないので、混乱による苦痛は緩和するが、面白いとは感じない。
同じ話題を、順番を変えて話すと、聞き手の脳内はこうなる。
[box class=”box2″]
私「今度の誕生日に44歳になるの」→聞き手の脳内(ふうん、そうなんだ)
私「広島カープに背番号44の迎祐一郎という人がいたの」→聞き手の脳内(ん?44が出てきたぞ)
私「オリックスに背番号44のブーマーという人がいたの」→聞き手の脳内(また44だ。44歳と関係あるのかな?)
私「私の誕生日に広島vsオリックス戦があってね」→聞き手の脳内(44歳の誕生日、何かやるのかな?)
私「44歳の誕生日に、迎とブーマーの背番号44のユニフォームを着るの」→聞き手の脳内(なるほど!そうきたか!)[/box]
最初に、44歳の誕生日という情報を提示することで、その後に背番号44の選手の話題を出しても、脳は44歳の誕生日との繋がりを探そうとする。
この前情報のおかげで、私の誕生日に広島vsオリックス戦があるという情報を出しても、脳は混乱せずに繋がりを期待してくれる。
聞き手の脳内に繋がりを探る気持ちが生まれているので、答えがわかったときに聞き手の脳はスッキリとする。
脳は、スッキリとする瞬間のことを、面白いと感じるのだ。
この例文自体があまり意味のない文章なので面白い話にはならないが、少なくとも最初の話し方ほどは聞いていて苦痛ではないはずだ。
情報の提示の順番次第で、聞いていて苦痛に感じる話となるか、無理なく聞ける話となるかの差が出ることは伝わっただろうか。
まとめ
あらためてまとめる。
面白い話をするには、
- 相手の脳内に足りない情報を予測し、その情報を補う
- 相手の脳に無理をかけずに補うために、言葉で説明する方法と、ストーリーで説明する方法を使い分ける
- 相手の脳内でその情報がどういう繋がりを持つかを意識して話す順番を組み立てる
この3点を意識すると、相手に興味を持ってもらえるようになるだろう。
参考図書
面白い話をするために参考になる本を紹介する。
『「ついやってしまう」体験のつくりかた』
元任天堂の企画開発をしていた著者が、ゲームを通じて人の脳に刺激を与えた方法を解説している本。
ゲーム好きは必読。
ゲームに疎くても、この本を読むために必要な情報は適切に補われているので、問題ないどころか、かなりの興味を持って読み進めることができる。
『書く力』
ジャーナリストの池上彰が、読売新聞の「編集手帳」を書くコラムニストの竹内政明の文章のコツに切り込んだ本。
一気に読ませる文章を書くコツがたっぷりと盛り込まれている。