仕事の主導権の握り方
会議の場を自分のものにできる人
会議の場で、議長でもないのにさりげなく場を仕切り、自分のペースに話を持っていき、自分の要望を通してしまう人がいる。
こちら側も言いたいことがあったはずなのに、場の空気を持って行かれ、発言しても重要視されずに終わってしまったり、そもそも発言の機会を見つけられなかったりする。
先日もそういうことがあったのだが、偶然にもその人の仕事術の裏側を覗くことができた。
自然に空気を自分のものにしているのかと思いきや、それは事前準備の賜物だった。
会議を自分のものにする人との打合せ
打合せ設定時から始まっていた
その人は、親会社の部長である。
ある日、その部長にお願いしたいことがあったので、打合せを設定した。
お忙しい方なのでまずは日程だけでも、と共有のカレンダーでスケジュールを抑えると、数分もしないうちに先方からメールが届いた。
「ご連絡ありがとうございます。設定会議議題に関する当部の認識を事前にご報告申し上げます。」
仰々しい文章とともに届いたWordで作られた添付資料を見てみると、A4の紙1枚分にびっしりと先方の要望が書かれてあった。
大項目1は打合せの議題に関係すると言えなくもない。
しかし、大項目2と3と4では全然違うことが要望されている。
単に時間を抑えただけのつもりが、間髪入れずに先方からボリュームのある要望が届いたため、すっかり慌ててしまった。
急いでこちらも資料を送る。
またすぐに返事が来る。
「内容確認いたしました。異存ございません。」
さらっと流されている印象を受け、手強い打合せになる予感がした。
打合せ当日
もともと1時間で設定していた打合せだった。
こちらからの要件は20分でつつがなく終了した。
「それよりも今、気になっていることがあって、」から始まった残りの40分と延長30分は、先方からの要望を聞く時間となった。
私が設定した打合せのはずが、「それよりも今」の一言で主導権は先方に移った。
A4の紙にびっしりと書かれた内容を全て話し合った。
打合せのもともとの趣旨とは全く違う内容だったが、事前に資料をもらっている以上、打ち切ることもできなかった。
結局、ゴリ押しに近い要望も受ける羽目になった。
終了時には、くたくたになっていた。
会議を自分のものにする人の準備
打合せの前から準備はされていた
その後、全く別件で会社の共有フォルダの中で探し物をしているときに、その部長が作りためている資料入れを見つけた。
急ぎではないが他部署や他社に要望したいことを、相手ごとにざっくりと形式を整えてまとめていた。
私が打合せを設定したときに、間髪入れずにすぐに資料を送ってこれたのは、ここにあるのをそのまま転送しただけだったからなのだ。
あの打合せを思い出した。
もともとの議題が終了した後に、「そういえば…」といった切り出し方で、思い出したかのように先方からの要望を言われたとしたら、私はおまけの話として、その場では概要を聞くに留めただろう。
こちらが打合せを設定するとほぼ同時に、先方からも議題という形で提示され、「それよりも」といった単語で、まるで先方からの要望が本題だったような進め方をされたため、私は先方の話を会議の主要議題として聞かざるを得なくなったのだった。
しかも、その打合せでは、最初に私からの要望を伝えていたため、こちら側が低姿勢になっていた。
その低姿勢の空気のまま、先方からの要望を聞くことになったため、ゴリ押しもされてしまった。
私が打合せを設定した瞬間に、こういう流れになるように設定されていたのだ。
そうするために、急ぎではない案件についても、いつ機会が来てもいいように、準備がなされていたのだ。
もう一つのポイント
しかも、それをグループ会社の社員であれば誰でも見られるところに置いてあることにも唸らされた。
このフォルダを見つけた人は、自分の部署名がタイトルに書かれたワードファイルを開いてみるだろう。
そこに書かれていることを読んで、次はこういう依頼が来るのかと心の準備をするだろう。
そうすれば、いざ打合せの時も話が早い。
見られて悪いものではない、というようりも、むしろ積極的に見てもらいたいたくて、あえて共有フォルダに置いているのだろう。
事前準備のパワー、恐るべし
この部長は、かなりの切れ者という評判である。
取引先から営業をかけられるときも、その時間を自分側の要望を相手に伝える場に切り替えているらしい。
事前準備のパワー、恐るべし。
場の空気は、その場が設定されるずっと前から作られているのだ。