一幸庵 本物のわらび餅の美味しさと風流な和菓子の楽しみ方を教えてくれた店
友人たちの集まりに、たまたまその日は黒一点となった男性が和菓子の手土産を差し入れてくれた。
その和菓子は茗荷谷にある一幸庵さんのもの。
和菓子職人として初めて情熱大陸に出演した水上力さんのお店だ。
一幸庵
一幸庵で有名なのはわらび餅。
1つ380円(1箱ではなく、1つ)というわらび餅としては強気の値段設定ではあるが、夕方には売り切れてしまう人気の商品らしい。
初めて食べる味だ。期待が高まる。
美味しさと風流と
目の前に並ぶわらび餅と上生菓子。
どれも美味しそうだ。
まずはわらび餅。
持ち上げて驚いた。
千切れ落ちそうな柔らかさなのに、ギリギリのところで持ちこたえる弾力。
そして一口食べてもっと驚いた。
つるんとした滑らかさが舌の上を滑り、とろんとした食感が口の中に広がる。そして軽やかに溶けていく。
外の餅が溶けるとほぼ同時に、中の餡もさりげなく小豆の香りを残しながらすっと消えていく。
どのわらび餅とも違う、初めて食べる食感なのは間違いない。
説明書きを読んで理解した。
このわらび餅は、わらび粉で作られているのだ。
現在、あちこちで見かけるわらび餅は、わらび粉ではなく、サツマイモやタピオカや葛などから作られている。
わらび粉は原料の採取や製造に手間がかかるため、入手が難しい。
しかも、わらび粉で作られたわらび餅は冷蔵庫に入れると固くなり色も悪くなるため、冷蔵保存ができない。
原材料が手に入りにくく、高価で、作ったものの保存もできないとなると、作る人がいなくなるのも当たり前である。
しかし、一幸庵のわらび餅は、わらび粉を「覚悟を決め一心不乱に強火で練って練って練り倒し」ているそうだ。
他では味わえないほど美味しいのは当然である。
わらび餅で有名な一幸庵であるが、粋な一面も持っている。
友人は上生菓子を選びながら「大切な女性たちへのお土産なんですよ」と軽口を叩いたらしい。
そうしたらお店の方が「かきつばた」と名付けられたお菓子を勧めてくれたそうだ。
古典が好きな方なら、ピンと来ただろう。
かきつばたといえば、伊勢物語に収められた有名な和歌がある。
唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
旅の最中にかきつばたが美しく咲いているのを見た男が詠んだ歌で、意味は、着慣れた唐衣のように馴染んだ妻を置いてきたが、この美しい花を見て思い出され、旅路の遠さをしみじみと感じる、という歌である。
旅先で大切な女性を思い起こす、という意味を持つかきつばたを、友人の「大切な女性たち〜」という言葉に掛けて勧めてくれるとは、そしてその言葉遊びがとっさに出てくるお店の方は、なんて風流なのだろう。
その和歌を知らなかった友人に、歌を書いたメモも渡してくれたそうだ。
感想
美味しさもさることながら、お店の方と相談しながらお菓子を選ぶ楽しみ方もできるこちらのお店。
和菓子へのこだわりは半端ないと思ったら、七十二候の季節を和菓子で表現したこういった本も出されていた。
季節を感じるために、和菓子を求める。
こういう楽しみ方ができるお店はとても貴重だ。
大切な人への手土産を求めに足を運びたいお店である。
お店情報
一幸庵
東京都文京区小石川5-3-15
03-5684-6591
定休日:日曜日、月曜日、祝日
営業時間:10:00~18:00
※わらび餅は7月〜10月は販売中止となります
https://tabelog.com/tokyo/A1323/A132302/13005076/