イタリアで野球を見た話。2008年新婚旅行・試合編


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2008年8月

新婚旅行7日目。
スイスから一気に南下し、イタリアのボローニャを目指す。
翌日乗る予定の飛行機はミラノ発なのに、ミラノを通り過ぎてなぜボローニャかというと、ここで野球の試合が開催されるからだ。

ボローニャでの試合開始は夜の9時。
夏の欧州は8時過ぎまで明るいとはいえ、1試合に数時間かかる野球の試合を夜9時に始めるとは驚く。
試合終了が0時過ぎるのは確実だ。
球場からの終バスは0:41分。
帰れなくはないが、知らない異国で終バスは怖い。
とはいえここで野球を見なければ何のための新婚旅行かも分からないので、覚悟をきめて球場へ向かう。

いざ球場へ

まずバスに乗る。
バスの運転手に「このバスは球場まで行くか?」と尋ねるが、運転手は意味がわからないという顔をしている。
とりあえず球場の位置を書き込んだ地図を握りしめ、じっと外を見る。
もちろん車内アナウンスはないし、途中のバス停にも名前は書いていないので、ひたすら外を眺め、通りの名前を読み取る。

30分ほど走った真っ暗な住宅街の真ん中で、夫が「たぶんここだ…、そう!ここだ!」と叫んだので、慌てて飛び降りた。

結論から言うと、そのバス停で正解だった。
暗く何の目印もない住宅街を歩くのは不安だったが、角を1つ曲がると目の前に突然明るい一角が現れたのだ。

これは、なんてすばらしい光景なのだろう。
暗闇の中に浮かぶカクテルライト。
楽しそうに笑い合う大勢の人々。
そして、その輪の中心で、野球が行われている。

※なお、夫に見知らぬ土地で正確に球場の場所を当てるという特殊能力が備わっていることを確信するのは、ここから数年後である

チケット売り場に向かう私。数秒後に玉砕

はやる気持ちを抑え、まずはチケット売り場らしきところに行く。
しかし、そこにいるおばあちゃんはシッシと手を振り、私を追い返す。
「奥へ行け」と言っているような気もするが、そう言われても、もうそこの奥はすぐに観客席だ。

もしかして無料?!
入場料を取らないプロ野球リーグってありなのか?
しかもプレーオフなのに?!

訳が分からないのだが、目の前で野球が行われているのは事実だ。
言葉も勝手も全く分からない国なのに、野球をしている人がいて、楽しそうに見ている観客がいる。
もうそれだけで素晴らしい。

球場の様子

ボローニャのFALCHI球場に集まった人々は200人はいるだろうか?
客層は子供からお年寄りまで男女問わず幅広い。
この人数がスタンドのベンチに座っているわけではない。
球場の周囲に自分たちでテーブルと椅子とワインを持って来てディナー後のひとときを楽しんでいる人たちが少なからずいるのだ。
野球を見るというより、そこに温かい場所があるから集まって来ているという風情で、これがヨーロッパ流の金曜夜の過ごし方なのかと感激する。

一応野球を見に来たのであろうベンチに座る人々は、近くの人と世間話をしつつ、不服な判定にはブーイングを必要以上にしてみたり、とマイペースで楽しんでいる様子だ。

選手も試合を抜け出しては売店で何かを購入して食べている。
みんな揃ってマイペースな中、試合は進んでいく。

試合

試合自体はかなり大味である。
クリーンヒットはほとんどないし、きれいなゲッツーもほとんどない。
ぼてぼてと打ち、ぼてぼてと守る。

なにせ、ピッチャーの投げる球はストライクゾーンに入らない。
一方で、バッターが振るバットはボールにかすりもしない。
そして、キャッチャーはピッチャーの投げる球をろくにキャッチできない。

上記の3つが同時に起こるとどうなるか。
1番打者、振り逃げ。
2番打者、振り逃げ。
3番打者、振り逃げ。
ようやく4番目の打者がバットにボールを当て、走者一掃のタイムリーを放った。

日本では草野球であれどもこのシーンに出会うことはないだろう。
目の前で起こった光景に呆然としながらも、野球マイナー国で野球を見る喜びがじわじわと心に湧き上がる。

球場設備

試合の雰囲気を理解したところで、売店に移動。
グッズ売り場と軽食売り場の2つの屋台が出ている。
グッズは帽子とポーチとTシャツの3種類だ。

売店のおばあさまに「日本人か?」と声をかけられる。
彼女によると、イタリアリーグに日本人は3人いたらしい。マエダ、シナダ、ワキタ。
ワキタは2試合出ただけで、ボールが当たり怪我をしてクビになったとか。
…と思われることを言っていたが、なにせイタリア語なので、よく分からない。
おまけに、我々の英語(つまりごく初歩的なことしか言っていない)も全く通じない。
しかし、野球という共通項があるだけでそれなりに会話になるのだから素晴らしい。

そして、夫がTシャツを買ったら、喜んだおばあさまが、おまけに青い箱をくれた。
その箱には「3才以下のお子様には適切ではありません」と書いてあった。
開けたら野球すごろくだったが、遊び方は不明。説明書はついているが、なんせイタリア語なのだ。

売店と売店のおばさま

再び試合

売店を離れスタンドに戻っても、試合は相変わらずぼてぼてと進んでいた。

そこにボローニャ軍の投手の交代が告げられ、球場が盛り上がりを見せる。
アナウンスは告げる。ピッチャー、バルガス。
マーチン・バルガス!
2002年から2004年まで中日ドラゴンズに在籍していたバルガスではないか!

夫がバルガスの写真を撮っていると、後ろからおばあさんが覗き込んで、指で丸を作りにっこり笑った。
日本では全く実績を残せなかったバルガスだが、どうやらボローニャチームの人気者らしい。

マーチン・バルガス

時計は夜の11時を過ぎている。
試合は7回表を終了したところ。
場内には「私を野球に連れて行って」が流れ始めた。
終バスは怖いので、できればその一本前では帰りたいのだが間に合うか心配になってきた。

ところが、ここから試合の雰囲気が一変した。
急に試合が進み始めたのだ。
ぼてぼてしているのは相変わらずなのだが、明らかに選手たちの攻撃の気力が落ちている。
もう誰もが、あまり打たない、走らない。

そして、あっさりと11時45分に試合終了。
9対3でボローニャチームが勝利した。

最後にバルガス

次のバスは0時7分。
そこまでまだ時間はあるということで、選手の控室方面へ向かう。
バルガスはちょうど控室の前で誰かと話していた。
それを離れたところで眺めていたら、話し終えたバルガスがこちらに向かって歩いてくるではないか!

バルガスがこっちに来たよ、どうすればいいんだ、と焦る我々。
明らかにバルガスはこちらを見ている。
「イタリア語でこんにちはってボンジョルノだよね?」「夜にそれはおかしいよ。バルガスはドミニカ人だしハローでいいんじゃない?」
焦る我々。バルガスはもうすぐそこに。
意を決したのか、夫が突然、「チューニチ・ドラゴンズ!」という謎挨拶を繰り出した!
バルガス爆笑!!

私も便乗し、しばし歓談。
バルガスは我々が日本人らしいと気が付いて、懐かしみに来てくれたようだ。
曰く、イタリアリーグはいまいちだけど、金曜の夜は酒が飲めるから嬉しいよ、とのこと。
なるほど、これが突然試合が早く進んだ理由だったのか。

ボローニャの街の印象だとか、どこに泊まっているんだとか、よくある世間話をしているうちに、楽しい歓談時間はあっという間に過ぎ、帰りのバスに乗るためにバス停へ移動。
初めての欧州野球観戦は無事に終了したのだった。

その後

会社を一週間以上休むなんて難しいよね。
そう思って、せっかくだからと行ったヨーロッパ旅行。

しかし、そこで見た野球の試合…あまりにも下手ではあるが、それでもとても楽しそうにやっている…に惚れ込んでしまった。
野球好きもそうではない人も、球場に集ってワインを飲みつつ盛り上がる姿がとても印象に残った。

もう一度あの光景が見たい。
毎年その繰り返しで、ヨーロッパに行っている。
行くと決めれば休暇なんてなんとかなる。

それぞれの国々で全く雰囲気は違うけれど、その雰囲気を知りたくて、我々はなんども足を運んでいる。
何度行っても思うのだ。
今年もまたあの光景が見たい、と。

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