浅草ハヤシで実印を作る。「自分の名前だから、こだわりもって」
実印が必要な予定がでてきた。
せっかくなので、実印らしい実印が欲しくなった。
過去に実印が必要になったときは、手元にあるあり合わせの印鑑を登録して使っていた。
しかし、そこら辺の認印と変わらないようなものだったので、すぐにいくつかある中でどれが実印登録したものか分からなくなった。
実印らしい実印を作ろうと、とりあえずインターネットで検索したが、いまいちピンと来ないまま日が過ぎていった。
浅草ハヤシ
そのとき友人が教えてくれたのが、浅草のハヤシという印章屋だった。
この友人は、文字を生業にしている。
美しい言葉と文字に敏感な美しい女性だ。
彼女はここで実印を作り、気に入って、遊印も作ったそうなのだ。
しかも、私が実印を作ろうと思っていることは一言も話していないのに、このことを教えてくれた。
なんて運命的な導きなのだ。
それならば間違いはないだろう。
いざ、注文
ハヤシの特徴は、WEBや電話では注文を受け付けていないところである。
実際に対面して、その人の印象を織り込みながら、印章を作るのである。
「自分の名前だから、こだわりもって」という店の標語に偽りはない。
まず材質
店に入って(特に予約は必要はない)、「実印を作りたいのですが」と告げると、実印によく使われる大きさなどを説明してくれる。
その上で、ショーケースに入っている様々な材質(象牙・白水牛・黒水牛・つげ・石・チタン・樹脂…)の印材から好きなものを選ぶように告げられる。
例えば同じ象牙でも品質によって値段が違って来るので、一本一本見て、好きなものを選ぶのだ。
私はもともと瑪瑙の手触りが好きなので、赤い瑪瑙にとても惹かれたが、5万円ほどしたので躊躇した。
常に手元に持ち歩き、いつでも瑪瑙の冷たい滑らかさを楽しめるならまだしも、実印とは普段はどこか奥深くにしまいこむものだ。
そう割り切って、一番安い樺(アグニ)を選んだ。
安いといっても18000円(掘り代込)ほどするが、美しいものを手に入れるためには必要な金額だろう。
掘る文字
印材を決めたら、次は文字の相談だ。
1.掘る文字
まずは何という文字を掘るかを決める。
実印なのでもちろん自分の名前なのだが、名字を掘るか、下の名前を掘るか、フルネームで掘るか、という選択肢がある。
1.5cmの空間の中に何文字入るかで、印影の印象は全く変わる。
2.字体
次は字体だ。
篆書・古印体・行書・八方体…といった種類がいろいろあるようだが、私の印象を見て、こういうのはどうだろうか?と提案がされる。
しかも、例えば篆書だとしても、一つの文字にいくつも表現方法がある。
その見本を見ながら、どの文字が好きかを話し合って決めていく。
掘ってもらう文字のメインの文字は自分で決め、それ以外については、バランスがいい文字を見繕ってもらうようにお願いした。
3.付属品
印鑑の付属品も選択の余地がある。
選ぶと言っても色を選ぶ程度だが、楽しい。
この3点が決まったら、精算して、完成を待つだけだ。
なお、クレジットカードは使用不可。
完成は2〜3週間後。
出来上がったら電話をくれる。
完成!
私の実印は2週間ほどで出来上がった。
お店に受け取りに行く。
確認
受け取りに行くと、まずは中身の確認だ。
付属品と印材が自分が選択したものかを確認する。
次に印影の確認だ。
繊細な掘りが美しい。
期待以上の仕上がりに嬉しくなる。
捺印練習
受け取って帰ろうかと思ったら、引き止められた。
紙と朱肉を出してきて、押してみるように言われる。
印鑑を朱肉に押し付けたところで、ダメ出しが入る。
印鑑をぐいっと朱肉に押し付けても、朱肉はムラになって、綺麗に押せないのだそうだ。
正しい朱肉の付け方は、ぽんぽんと軽く朱肉に印鑑を何度も何度も触れさせること。
これでムラなく美しく印鑑が押せるのだそうだ。
紙に押すときもダメ出しが入る。
力を込めて押さないように、ゆっくり円を描くように押すように言われる。
正しい押し方をすれば、力を入れなくてもきれいに押せると、実演してくれた。
普段の保管方法なども教えてもらい、実印は私のものになった。
新しい実印
無事に完成した実印。
人生で何度も使うものでもないので、ここまで気合いを入れなくてもいいかと考えもしたが、使うときは多くの場合「ここぞ」というときなので、思い切って作成をお願いした。
完成品は予想以上の仕上がりで、とても愛着が湧いている。