ベルギーまで野球を見に行ったのに、見られなかった日
2013年7月
ベルギー、アントウェルペン
2013年7月のある日、私と夫はベルギーにいた。
ベルギーの野球リーグ、フラームス・ベースボール・リーガ(Vlammse Baseball Liga)の試合の日なのだ。
意気揚々と宿泊先のブリュッセルから、国鉄でアントウェルペン(アントワープの方が私には馴染みがあるが現地語に近い表記で記す)に移動。
せっかくなのでフランダースの犬関係地をちらっと見た後、トラムに乗り、バスに乗り換え、郊外の野球場まで行った。
いざ球場へ
野球が盛んでない国で野球の試合を見ようとすると球場にたどり着くまでが大変だ。
日本を始めとした野球の盛んな国であれば、野球の試合のある日、それっぽい時間に球場の最寄り駅に行くと、同志がぞろぞろと列をなして球場に向かっているから、ついていくだけで良い。
しかしヨーロッパでは、そもそも球場が郊外の不便なところにあり、最寄駅についても歩行者一人もいないという状態のことがある。
「ほんとにこんなところで野球やってるのかな?」と不安になりつつ、地図を握りしめて、歩を進めるしかない。
そうすると、突然目の前に球場が現れ、選手の声や球音が聞こえてくるのだ。
この瞬間が感動的で、異国での野球巡りは止められない。
さて、アントウェルペンにあるブラスチャート・ブレーブスの本拠地も、ほんとにここでいいのか?と不安になる森の中にある。
森の木々の間から球場がチラリと見える瞬間は、何度味わっても感動する。
しかし、その瞬間、あらたな疑問が浮かんだ。
「声が聞こえない。。球音もしない。。人の気配もない。。。」
試合中止の理由
球場にいるのは、一人のおばあさんだけだった。
誰もいない球場を前に立ち尽くす我々に、おばあさんはつたない英語で懸命に説明してくれた。
「今日は対戦相手が来れなかったの。だから試合はなし。試合をするのに充分な人数を集めることが出来なかったの。」
ええーっ!と驚く我々に、もう一度噛んで含めるように繰り返した。
「They couldn’t come. No game, today.」
日本や韓国や台湾やアメリカでは考えられないが、ヨーロッパの野球リーグでは、こういう謎の試合中止が時々発生する。
この2日ほど前にも、パリで、同じ理由で試合中止をくらっていた。
ヨーロッパの野球リーグは、平日は野球以外の各自の仕事をしており、週末に集まれる人が集まって試合をするもので、選手が足りないことが起きるようだ。
地元球場での試合ならまだしも、遠征に行くのは負担が大きいのだろう。
もしかしたらバカンスシーズンが始まったので、選手たちも家族サービスに忙しいのかもしれない。
※ちなみに、この年までは毎年こういった理由で球場まで行っても試合が見られないことがあったが、これ以降は起きていない。
試合が安定的に行われるようになったのか、たまたまなのかは不明。
それでも、野球
誰もいない球場の横で、キャッチボールをしている子供たちがいた。
ベルギーにもキャッチボールをする子供がいるということに胸が熱くなる。
彼らが取り損ねたボールが、足元に転がってきた。
夫が投げ返した球を見て、歓声をあげる子供たち。
これくらいのボールを投げられるだけで驚いていたら、メジャーリーグの試合を生で見たら、目ん玉が飛び出るのではないだろうか。
ヨーロッパにも野球の輪が広がりますように。
この子たちがずっとずっと野球を好きでいてくれますように。