働くこと

「好きなことを仕事にすること」とは覚悟を決めていることである

2017/02/07

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BAR DORAS

浅草の隅田川沿いに、DORASというバーがある。
店主の中森さんが一人でされている店というだけでは特別に聞こえないかもしれないが、中森さんご自身がヨーロッパ各国を訪れ、酒屋だけではなく蒸留所も巡って仕入れた酒を出している店と聞くと、こだわりの強さが分かる。

その中森さんの旅行記の『旅するバーテンダー』を読んだ。
旅行そのものやお酒について興味深い記述が全体に渡ってされているが、それを通して「好きなことを仕事にすること」についても考える機会になった。

著者、中森さんの旅

中森さんの旅の理由

中森さんが、年に一回お店を閉めて、ヨーロッパを旅する理由は、本の冒頭に書いてある。

バーテンダーとして各国の酒を扱うなかで、こんなことを思った。
酒自体の知識を詰め込むこともたいせつだ。しかし、それと並んで重要なことがあるのではないか。
その酒がどこでどのようにして生まれたのか。生まれた土地の文化や風土はどんなものなのか。そこではどんな人たちが暮らしているのか。
そういうことは、その酒が生まれた土地を実際に訪ねてみなければわからない。ならば、訪ねてみよう。

もし誰かを好きになったとき、その人のことを深く知りたくなってゆく。
その人が住む街や生まれ故郷についても興味が湧いてくる。
お酒も、同じだ。
中森さんが、どれだけお酒を愛しているか、この冒頭の一文だけで伝わって来る。

中森さんの旅のスタイル

中森さんの旅は、目的地はどこであれ、やることは一貫している。
目指す土地に行き、その土地でしか手に入らないお酒を探す。
その土地ならではのものを食べ、お酒を合わせて楽しむ。
お酒が作られているところに行き、その生まれる過程を目と魂に焼き付ける。
劇場のあるところでは、オペラやオペレッタなどの音楽を楽しむ。
海のある場所では、波に乗る。(中森さんはサーファーでもある)
蚤の市のある場所では、お店で使うグラスを探す。
購入したお酒はその都度、"鬼の梱包"をして日本に送る。
そして、これらのすべてのシーンで、地元の方と触れ合っている。

体調を崩して救急車で運ばれたり、財布をすられたり、スピード違反で捕まったり、といったアクシデントにも遭遇しているが、それでも負けずに次の目的地に進み、そのアクシデントでさえ地元の方と触れ合うきっかけになっている。

中森さんはどの瞬間も真剣である

中森さんは、ヨーロッパの旅で体験したすべてを、DORASの客に伝えたいと思っている。
見聞きしたこと、お酒やその場の空気の香りや味わい、肌を撫でる風や波までも、自分の中に取り込んで一体化しようとしている。

例えば、子供の頃、学校を休んだ友達にノートを見せる約束をした日、いつもよりも真剣に授業を聞いてノートをとった記憶はないだろうか。
中森さんにとっての旅は、これと一緒だ。
だからこそ、どの瞬間も気を抜かず、真剣なのだ。

その真摯な姿勢が、ヨーロッパのお酒の造り手達の心を動かす。
中森さんが、お酒を単なるアルコールとしてではなく、それぞれの背景を持つ物語として提供しようとしているのが分かるのだ。
世代を超えて長い間、蒸留所を守り、自らの酒を追求してきた造り手達にとって、これほど嬉しいことはないだろう。
中森さんのことを、まるで日本から家族がやってきたかのように迎え、時を過ごす。

「好きなことを仕事にすること」とは

BAR DORASのお客様は日本中にいる

私は、2度ほどDORASでお酒をいただいたことがある。
2度行ったうちの1度目は、福岡に住む常連の方がいらしていた。
2度目は、広島に住む常連の方がいらしていた。

DORASは浅草にあるといえども、浅草寺といった観光地からは少し離れたところで、お店の看板も分かりにくく、入りにくいお店である。
しかし、中森さんの選んだお酒を飲みたい方が、日本全国から集まってくる。
本からもお店からも、中森さんのお酒に対する愛情と、バーテンダーという仕事に対する誇りが伝わって来る。

「好きなことを仕事にすること」とは覚悟が決められること

中森さんは好きなことを仕事にしている人である。

「好きなことを仕事にする」というと、それこそ成功の秘訣だという人もあれば、そんな甘いことではやっていけないという人もいる。
「いいなあ、旅行行って、美味しいもの食べて、夜遅くまでお酒飲んで、オペラ行ったりサーフィン行ったりしちゃって、楽しそうだなあ。」で終わらせてしまう人は、好きなことを仕事にしても成功しない人だろう。

「好き」とは、楽しく気楽なことではない。
好きになったからこそ、もっと深く知りたくなり、もっと良さを人に伝えたくなる。
そのためにはストイックにならざるをえない場面も出てくる。
そのときにどれだけ真剣になれるか、その覚悟が強いことが「好き」ということである。
覚悟は、思いとも言い換えられる。
思いが強ければ、それは人の心を動かし、遠くの人をも呼び寄せる。

「好きなことを仕事にすること」というのは、決して楽をすることではない。
そういう意味では、「そんな甘いことではやっていけない」というのも間違っていない。

ただし、好きなことに対し、本気で惚れ込んでしまったら、自ずと覚悟が決まっていく。
そのことをきちんと理解した人だけが、「好きなことを仕事にすること」が可能なのである。

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