自分を変えるために思い切って美容室を変えた日の話
かれこれ8年ばかり通っている美容室の担当の方からメールが届いた。
なんと、自分のお店を出すことになったらしい。
8年前、初めてその美容師さんに会ったときのことを思い出していた。
2009年3月26日
美容室を変えてみよう
いつも、家の近所の美容室で髪を切っていた。
でもその日は、普段より+2000円を奮発し、銀座に乗り込んだ。
しかも雑誌で見つけた店で、雑誌に名前が出てた人を指名する、という普段の私なら絶対にやらない暴挙に出たのだった。
私が美容師さんを指名するなんて、おこがましいのではないかと思っていた。
しかし、その時ちょうど人生の転換期にあった。
簡単に言えば、8年ほど勤めた大きな会社を辞めようと考えていた。
そこにいれば、安定した生活を送れるという未来が見えていたのだが、その安定に魅力を感じなかった。
見える将来をたどるのではなく、見えない未来に挑戦したい。
そのためにも、自分を変化させたい。
普段と同じことをしていたら、普段と同じ自分にしかなれないから、少し頑張ってみたのだ。
お店に到着
初めて行った銀座の美容室は明るくてキラキラしていて、家の近所の美容室より客層が若かった。
場違いなところに来てしまったかもと緊張しながら、指名した美容師さんが来るのを待った。
「どんな感じにしますか?」
この質問が苦手だ。
正直いって、手入れが楽なら長くても短くてもどうでもいいから、いろいろ聞かれても困る。
重さを残すとか軽くするとかよく分からないし、なりたい雰囲気というのも、奇抜じゃなければ、それでいい。
私が指名した人懐っこそうな笑顔の美容師さんも、この質問をしてきた。
「スーツに似合うようにしたくて・・・」 と言って口篭もる私に、美容師さんは言った。
「短い方が似合いますね。切ってもいいですか?」
素敵!話が早い!!じゃんじゃん切っちゃってください!!!
まずは、シャンプー
場違いな場所に緊張しているせいか、シャンプー台の上でも余計な力が入ってしまう。
頭をゴシゴシされながら暇だったので、(足に力が入って不自然に浮いているなあ。組んでいる指も妙に力んでいるなあ)と自分の緊張度合いを一つ一つ確認していた。
それなのにシャンプーが終わったら、シャンプーを担当してくれた若い美容師さんが「うちの店はじめてなのに、全然緊張してないですね。」と声を掛けてきた。
え?緊張が表に出てないの??と驚いたが、私だけではなく、多くの人が初めての店には緊張するんだということが分かって、心強い気持ちになった。
そして、カット
美容師さんと喋るのが苦手だ。
職人の手の動きは見ているだけで楽しいから、それだけで充分、会話などはいらない。
「今日はお休みですか?お仕事は何されてるんですか?」などと聞かれても、休みの日まで仕事の話はしたくない。
「お休みの日は何してるんですか?」などと聞かれても、野球の話しかできない。
もし私が野球が好きだと答えたら、WBCで日本代表が優勝した直後のこの時は、こんな風に言われただろう。
「WBC優勝しましたね!やっぱり最後はイチローでしたね。イチロー凄いですよねー!」
でも私は、明らかに不調だったイチローを休ませて、勢いのありそうな亀井を使うべきだと思っていたし、それでもイチローを出すなら一番打者ではなく九番にした方が良かったと思っていた。
とはいえ、「あの采配はもっとやりようがあったんじゃないですかね。」などと答えたら話が続かないから、きっと無理に「イチロー凄いですねー。」と言ってしまうだろう。
そして、心にもないことを言ってしまったことに、自己嫌悪しただろう。
やっぱり美容師さんと話すのは苦手だ!
しかし、私の指名した美容師さんは余計なことを喋らず、でも楽しそうに、ばさばさと切っていった。
なんて素敵なのだろう!
そして何も喋っていないのに、私の性格を見抜いたのか、
「ドライヤーでガーって乾かすだけで、ブローもワックスもいらない髪型にしました。」
と言って、それなのに、きれいにまとまっているボブが完成した。
なんて素敵なのだろう!!
まさかの店長
めちゃくちゃ感動しまくっている私を見て、美容師さんはにっこり。
そして「ご挨拶が遅れましたが。」と言って、名刺を差し出した。
そしたらなんと、その名刺には、『店長』という文字が!
わ、私は、店長をいきなり指名しちまったんかーーーっ!!
軽く顔面蒼白になりつつも、切ってもらったものはしょうがない。
さすが店長になるような人だから、何も言わずとも私の望みを見抜いてくれたのだろうか。
美容室で全くストレスを感じなかったのは初めての経験で、たとえ+2000円であろうが通い続けると誓ったのだった。
そして、2017年
あの日の誓い通り、ずっとそのお店に通い続けた。
この先もずっと通い続けると思っていた。
その美容師さんの新しいお店の所在地は浦和。
家から通うには少し遠い。
実は今、髪の毛を伸ばしていて、もう少し伸びたら、その美容師さんに今後のことを相談するのを楽しみにしていた。
一度は会いに行かなくては。
祝福と感謝と少しの寂しさを感じつつ、新しい旅立ちを応援したい。