さよなら湘南電車。国鉄113系、東海道線湘南地区引退。2006年3月17日
聞きなれないアナウンス
「この電車は、1963年…昭和38年から本日まで運行してまいりました、113系湘南電車の最終電車です。」
聞きなれないアナウンスに車内がざわめいた。
2006年3月17日23時13分、東京駅。
おもむろに扉が閉まり、電車はゆっくりと走り始める。
ホームにはあふれんばかりの人。
フラッシュが光る。
手を振る人もいる。
プラカードをかかげている人もいる。
「さよなら」と口々に叫んでいる。
車内に目を向ける。
へたり気味の座席。冷たい窓枠。冬の隙間風。
柔らかさを感じる塗装。ゴトゴトという優しい音。
大好きだった、この電車。
国鉄113系。
113系
日本の大動脈的鉄道といえば、東海道線。
その東海道線の看板列車といえば、オレンジと緑…湘南色と呼ばれていた…に塗り分けられた113系。
幼い頃からそう考えていた私だから、113系には思い入れがある。
東京に憧れと畏怖を抱いていた東北地方の電車好きの子供にとって、湘南色の113系は東京を象徴する電車であり、やはり憧れの存在だったのだ。
2006年当時、私は茅ヶ崎に住み、都内に通勤していた。
茅ヶ崎駅から会社の最寄り駅まで、乗り換えなしで乗車時間は片道55分。
短い時間ではないが、長いとも感じなかったのは、113系のおかげだ。
当時すでにE231系といった新しい車両も運行されていたが、113系もまだまだ現役で、朝の通勤時、ホームに113系が入ってくると心の中でガッツポーズをしたものだ。
冬は窓枠から隙間風が入るため寒く、夏も新型車より冷房の効きが悪いような気がしたものだが、それでも113系は特別だった。
一人では抱えきれないことが起きると、列車に乗ってぼんやり外を眺めることで自分を保っていた。
多摩川の水面、藤沢の桜並木。
休日には国府津の方まで車窓を求めて行くこともあった。
この113系には、ほんとお世話になった。
113系最終運行
2006年3月17日。
残業が長引いたおかげで、思いがけず113系の最終運行に立ち会うことができた。
東京駅では多くの人が手を振っていた。
夜遅くにも関わらず、沿線にはカメラを持った人が大勢いた。
窓枠に昭和46年の日付が落書きで彫りこまれた113系に乗ったこともある。
そんないたずらをした子供(たぶん)も今はきっと50歳前後。
私が生まれる前からそんな落書きを背負って走ってきた愛しい電車に、もう乗ることはできない。