炭鉱の島、池島。第二の軍艦島と呼ばれる場所で日本の未来が切なくなった
長崎の池島に行ってきた。
池島は、かつて炭鉱で栄えた島である。
閉鉱は2001年。
最盛期には8000人近くいた人口は今では104人(訪問した2023年1月時点)しかいない。
つまり、島には7000人以上分の空き家が残されているのだ。
その廃墟ぶりが話題になって第二の軍艦島と言われたりもするのだが、実際に行ったところ、池島ならではの印象を受けた。
池島散策
池島に行くルートは3種類あるが、駐車場が無料の神浦港から向かった。
30分ほどフェリーに乗り、池島に到着。
港の近く
池島に上陸し、少し歩くとアパート群が見えてきた。
団地のように建物が並ぶ。
しかし、これだけの部屋数があり、天気もとても良いのに、人が全くいないという違和感がある。
ぱっと見た感じではきれいに見えた建物も、近くで見たら、きれいどころかベランダの柵が崩れ落ちていた。
カーテンの掛かっている部屋もあるのだが、今も人が住んでいるのかは、外から見ている分には見当がつかない。
建物の入口に貼られた張り紙を読んでみた。
どうやら人は住んでいなさそうだ。
この大きな建物がシロアリ被害で壊れかけているらしい。
団地を抜けると、炭鉱で使われていた機械が見えてきた。
一周4kmほどの小さな島に似つかわしくない大きな機械が、かつてはどれだけ栄えた炭鉱だったかを教えてくれる。
かつての商店街
歩みを進めると、町並みが変わった。
アパートではなく、一軒家が立ち並ぶ。
炭鉱ができる前から住んでいた人の居住区らしい。
一軒家が立ち並ぶ、と書いたが、実際は立っていない建物も多い。つまり、崩れている。
管理が行き届いている町ならば危険だからと一帯を立入禁止にするだろうが、この島は、立入禁止にすることも撤去することもなく、ただ日常風景として崩壊した家が並んでいた。
どういう経緯で引っ越しに至ったのか、残置物が多い。
パチンコ屋の跡地と思われる建物もあった。
一般家庭から出た残置物もある。
自らの手でインデックスに曲名を書いたカセットテープは、とある世代には突き刺さるはずだ。(私は刺さった)
下の写真の真ん中にあるひらがなで書かれた「くうるす」という文字がこそばゆい。
たぶん、舘ひろしがボーカルをやっていたバンド、クールスのことだろう。
ひらがなで書くことが「ナウい」時代があった。
その隣にある「ABBA」のレタリングも身に覚えがある。レタリングシールをちまちまこすった記憶は私にもある。
その上にあるカセットテープの絵は吉田まゆみの『レモン白書』だろう。
左上にあるカセットテープの絵は、色褪せて薄くなっているが、たかなししずえの『オレンジ通信』だろう。
私より10歳ほど年上の人のものだと思われるが、あの頃の昭和のニオイがそのまま留まっていて、身悶えした。
壊れた建物が続く。
このように廃屋が並ぶが、その間に今も使われている建物も存在するのが、この島の特徴だ。
まだ壊れていない建物なのか、現役で使われている建物なのか、見ただけでは分からないものも多いが、この建物には人の気配があった。
この辺りにはスナックや飲食店の跡地もあった。
島の平地部分を抜けると、坂道を登ることになる。
その坂の上には、炭鉱労働者が住んでいたエリアがある。
炭鉱労働者の住まいがあるエリア
炭鉱労働者が住むエリアも、港の近くと同じように団地状態である。
建物の数は多すぎて、数えきれない。
営業している店舗があるのもこのエリアだ。
島で唯一の金融機関である郵便局。
2014年までは日本郵政直轄だったが、今は島民に業務委託をしている簡易局になった。
ATMはなく、窓口でしかお金をおろせない。
島で唯一の商店と飲食店だが、訪問した日(1月9日・祝日)は休みだった。
なお、建物の老朽化に伴い、2023年3月末で商店も飲食店も閉鎖されてしまうそうだ。
かつては島民の娯楽の場もこのあたりにあった。
閉鎖になった銭湯もあった。
島には3つの公共浴場があったらしいが、今でも営業しているのは1つだけ。
この写真の浴場は、1年前までは営業していたらしい。
学校もある。
今いる生徒は、小学生2人と中学生1人。
全校生徒数に対して、十分すぎる広い敷地だ。
元々は小学校だった場所が、今は小学校と中学校が併設になったらしい。
かつてはこの建物を埋め尽くすほどの子供がいたのかと驚かされる。
島には神社もある。
池島名物の8階建てアパート。
島の狭い敷地内に多くの人を住まわせるための苦肉の策だ。
この8階建てのアパートは斜面に沿って建てられていて、表側の入り口は一階にあるが、裏側の入り口は5階に作られている。
つまり、4階建てのアパートを2つ積み重ねた作りにしているため、8階建てなのにエレベーターが無い。
知恵を絞って予算を削減した結果生まれたアパートなのである。
池島と軍艦島
池島は、同じ長崎にある旧炭鉱の島である軍艦島と並び称されることがある。
私もかつて軍艦島に行ったことがあるが、受けた印象はだいぶ違った。
軍艦島は、炭鉱が閉山すると同時に全住民が島外に出ていき、無人島になった島である。
島には命の気配が全くせず、凍りついたような空気が漂っていた。
凍りついた空気は寒々しかったが、それは、ある日突然島に流れている時間が強制終了したために起きたことだと分かっていたため、自分には無関係な特別な出来事を見るような気持ちだった。
一方、池島には、あちこちに生命の気配があった。
猫はたくさんいたし、ヤギもいたし、人も住んでいる。
ただ、確実に、かなりのスピードで、衰退している。
この衰退ぶりは他人事ではないと思った。
既に日本のあちこちに、人が住まなくなった建物が崩れ落ちて後始末がされずにそのままになっている地域があるだろう。
この先、日本の人口が減少していったら、もっと増えるだろう。
池島の光景が、日本の日常風景になる可能性もあるのだ。
そう考えたら、池島の光景をしっかりと目に焼き付けておかないといけないと思った。
これから日本がどこに向かって進むのか。
この風景を良しとして受け入れるのか、はたまた違う風景を目指してあがくのか。
一人一人の生活の集積が風景を作る。
未来に私は何を残すのかを、池島を離れた後も折に触れて考えている。
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