人の心を無視した合理化は、実は全く合理的ではない
独りよがりな生産性向上
自分の仕事を他人に押し付ける
世の中には、生産性を上げるとは、自分の仕事を人に押し付けることだと思っている人がいる。
その人に聞くと、きっとこういう答えが返ってくるだろう。
「それって強みじゃないんだよね。他のそれをもっと得意とする人がやった方が合理的だと思わない?」
それは確かに正しいが、とても大事な基本が抜けている。
自分が得意ではない仕事を他の人に渡したいならば、その人が得意ではない仕事を代わりにもらうか、しなくて済むようにしてあげよう。
Give&Takeという言葉が古くからあるくらい、自分が何かをしてもらいたいなら、代わりに何かをしてあげるのが、今更言うまでもない人間関係の基本だ。
他の人の生産性を犠牲にして自分の生産性をあげるのは、組織の視点から見ても、全くもって意味がない。
誰か一人の生産性が上がったとしても、他の人の生産性が落ちたら、組織の生産性はプラスマイナスゼロである。
それに加え、ギスギスした感情が生まれる分、マイナスとなる。
生産性向上を他人に押し付ける
こういう話をすると、次に出てくるのが、他の人に生産性向上を押し付ける人である。
「それって意味なくない?こっちのやり方の方が、絶対いいに決まってるって。え?何ごちゃごちゃ言ってんの?こっちの方が絶対いいんだから、余計なこと言わずにやってみなって!」
他の人の生産性も向上してあげたと、本人はご満悦であるが、そこに生まれるのはしらけた冷たい空気である。
全ての業務には心がある
その業務の意味
誰かが何かをしているとき、そこには必ず意味がある。
それが意味のない業務だったとしても、何らかの意味があるから、行われているのだ。
誰かの業務を無くそうと思ったときは、まずその業務をする意味を聞いた上で、その意味を損なわないような提案をしなくてはいけない。
意味のない業務に見えていただけで、その業務が屋台骨の一部だった、ということもあり得る話だ。
意味のない業務の意味
とはいえ、意味のない業務をする理由として一番多いのは、次の言葉である。
「今までやってきたことを、意味がないなんて否定されたくない。」
要するに、その業務に意味がないと言われることを、自分自身に意味がないと言われたように感じてしまうのだ。
そこで、自分自身の存在意義を守るため、この業務には意味があると、何かとそれらしい理由を並べて言い張るのである。
意味のない業務の、意味のくみ取り方
この場合は、過去と未来を切り分けて考えてもらえるようにする。
過去には、確かにその業務が必要だった時代があっただろう。
その時代を支えてくれたことに感謝をする。
そして、時代が変わったため、必要とされることも変わったのだと、説明する。
次に、今までの業務に変わる、その人の新しい存在価値の発揮方法を提案する。
心を無視してはいけない
人が何かをしているとき、そこには心がある。
その心を無視した変革は、不協和音を呼び起こす。
それがいい方向に向かうための変革であっても、「心が無視された」という事実の前には、いい変革も悪い変革もないのだ。
心に向き合うことでスタートラインに立てる
心と向き合うこと
一人一人の心に向き合うのは時間が掛かる。精神的にも疲れる。
それでも、後になって、心を無視して生まれた不協和音を解消しようとする方が、よっぽど大変で時間が掛かって精神的にもダメージをくらう。
組織が大きい場合には、ますます一人一人の心に向き合うのは難しいだろう。
しかし、全ての業務に人の心が入っていることを意識することはできる。
それが具体的にどんな心かは分からなくても、誰かの思いが詰まった業務を変えることに対し、今までの感謝と、大切なものを変えてしまうことに対するお詫びをしよう。
心が一番辛いのは無視されることだ。
感謝とお詫びによって心が存在していたことを認めてもらえたら、随分と気持ちが楽になる。
そこで初めて、新しい価値を受け入れる心の準備ができるのだ。
土台にあるのは心だから
全ての行動が人の心から生まれるのであるから、人の心を無視したところに、新しいものは生まれない。
心の存在を認めて初めて、スタートラインに立てるのだ。
一見回り道に思えても、心の存在とともに進むことが、一番早い道なのだ。