WBC2017、イスラエル代表、韓国相手にまさかの初勝利!!
野球の世界大会、始まる
WBC
昨日から始まったWBC(ワールドベースボールクラシック)。
世界野球ソフトボール連盟公認の野球の世界一決定戦である。
世界の中で、野球が職業として認知され、野球だけでご飯が食べていける国はそう多くはないが、野球リーグを持つ国はたくさんある。
WBCは、そういう野球がマイナー競技である国の試合を一挙に見られる、素晴らしい機会である。
目玉はイスラエル
今回のWBCで、私の中の目玉はイスラエルだ。
イスラエルの野球人口は5000人にも満たないと言われている。
イスラエルも野球リーグを持ち、最高峰のプレミアリーグには、イスラエル・ライオンズやテルアビブ・タイガースといった、日本人的に馴染みやすい名前のチームを含め10チームある。
だが、10チームのうち、現在まともに稼働しているのは3チームのみという、謎に満ちたリーグだ。
イスラエル野球リーグの公式HPには、「What is baseball?」という「野球は1チーム9人でやるスポーツで、片方が守備を、片方が攻撃をします」といった説明がされているページもある。
それくらいイスラエルには野球を知らない人が多い。
そのイスラエルが、なんとWBCの予選を勝ち抜いて、本戦に進出した。
イスラエル野球連盟のサイト
[blogcard url=”http://www.baseball.org.il/”] [/blogcard]
チームメンバー
WBCの出場資格
WBCの特徴として、選手はその国の出身者ではなくても、下記の条件のいずれかを満たせば代表として出場することができる。
1.当該国の国籍を持っている。
2.当該国の永住資格を持っている。
3.当該国で出生している。
4.親のどちらかが当該国の国籍を持っている。
5.親のどちらかが当該国で出生している
そしてイスラエルの特徴として、ユダヤ系であれば簡単に国籍が付与され、二重国籍が認められている。
その結果、イスラエル代表のメンバーは、イスラエル出身は1人で、他はユダヤ系アメリカ人が占めることになった。
イスラエル代表
チーム28人のうち、イスラエル出身者は、投手ショロモン・リペツ、ただ1人。
先発もしくは中継ぎで、テルアビブ・タイガース所属ではないかと推測するのだが、全く情報がない。
26人は、マイナーリーガーで、1A〜3Aまで幅広く揃っている。若手もいればメジャーから落ちたマイナーリーガーもいる。
そして、残りの1人が、かつてメジャーリーグで活躍したが、2015年6月に戦力外通告を受け、その後、どこのチームにも所属していない、ジェイソン・マーキーだ。
野球未開の地で野球をし続ける投手と、メジャーリーガーを目指して頑張っている選手と、戦力外通告を受けたのに野球を諦めきれない選手。
この28人に共通しているのは、皆、野球に夢を見て、夢を追い続けていること。
それが、イスラエル代表なのだ。
イスラエル代表、ソウルに入る
2013年WBCにもイスラエルはエントリーしたが、あっけなく予選で敗退している。
しかし、二度目の挑戦となる今回、なんと予選リーグを突破し、番狂わせだと関係者をざわつかせた。
「軽視したら痛い目を見るのではないか」
そういう評判を背に、イスラエル代表は、本戦の舞台となる韓国に入った。
憧れのWBCの舞台に出て、そわそわしているかと思いきや、イスラエル代表はソウル観光をしてFacebookに載せるなど、なかなか余裕のある動きを見せている。
土曜日には、韓国警察軍との壮行試合が行われ、勝利した。
(私はこの試合を見るためにソウルに行っていたのだが入場できなかった)
そして、WBC本戦の初戦、地元韓国との試合に臨んだのである。
イスラエル、ついに初戦
イスラエルvs韓国
地元・韓国は、野球に熱い国である。
応援は独特で、かなり賑やかだ。
イスラエル代表は、完全にアウェーの雰囲気の中、戦うことになる。
先発は、2015年に戦力外通告を受けたジェイソン・マーキー。
1年以上実戦経験のない投手がエース扱いを受けているあたり、イスラエルの実力が伺い知れる。
両チームの実力は
どう見ても、実力は韓国の方が上だった。
野球の実力差は、まず外野の守備位置に現れる。
後ろに打球を追うのが難しいのと、後ろに抜かれたときに球を追いかけるのに時間がかかるため、守備が下手なチームほど、外野手が後ろに下がり深く守る傾向がある。
そして、イスラエル代表の外野の守備位置は、いつも深い。
バッティングも、イスラエルは小技は使えなさそうで、どんな場面でも積極的に振ってくる。
試合が、始まった
しかし、緊張しているのは韓国のようだった。
投手の制球が定まらない。
制球が定まらない中、バッターがビュンビュンとバットを振ってくるのは怖いだろう。
2回表、韓国の先発、張元準が乱れ、四球を連発したあげくの押し出しで、イスラエル代表が先制をした。
その後、韓国代表はランナーを出し続けるが、なかなか点数に結びつかない。
5回裏、なんとか追いつくが、続くチャンスに金泰均(キム・テギュン)、李大浩(イ・デホ)といった日本でも活躍したビッグネームがファールフライで倒れる。
試合は1対1のまま、終盤に突入した。
まさかの継投
7回表、イスラエルは満塁としチャンスを作る。
次の打者のカウントは、3ボール1ストライク。
しかし、ボール球に見える球を審判がストライクと宣告し、押し出しでの得点とはならず、この回も無得点で終了。
このあたりから、審判の判定が韓国側に甘くなってくる。
審判も、イスラエルが韓国と互角に戦う展開に、自分の目が信じられないのだろう。
8回表、またイスラエルが満塁とする。
ここで、驚くべきことが起こる。
韓国が、マウンドに、メジャーリーガーである呉昇桓(オ・スンファン)を送り込んできたのだ。
イスラエル相手に抑えの切り札を送り込む展開になるとは、韓国ベンチは予想していなかっただろう。
しかも呉昇桓は9回をぴしゃりと抑える投手なのだが、前倒しの投入だ。
盛り上がる観客席。
球場の空気が韓国側にガラリと変わる。
大歓声を背に受け、呉昇桓はイスラエル代表を、まるで赤子を相手にするかのようにあっさりと片付けた。
ピンチを切り抜ける
ノムさんなら、したり顔で、ピンチの後にチャンスあり、というだろう。
その通りの展開で、8回裏、韓国はチャンスを迎えた。
しかし、四番の李大浩(イ・デホ)が三振に倒れるなど、どうも点に繋がらない。
イスラエルは息を吹き返し、試合は1-1のまま、延長戦に突入した。
まさかの終戦
10回表、WBCは10回を終えても引き分けだとタイブレークになるため、これがイスラエルの最後の攻撃となる。
韓国は元ヤクルトの林昌勇(イム・チャンヨン)を出してきた。
緊迫したムードには、百戦錬磨のベテランがふさわしい。
韓国代表の本気の継投は続いている。
しかし、その林昌勇が乱れる。
1アウトを取ったものの、その後、四球とヒットで一・三塁。
この時点で、三塁ランナーは疲れ果てていた。
実際、二塁を回る際に足がもつれて、よろめいている。
肩で息をする三塁ランナーを審判が心配そうに覗き込んでいる。
実は、イスラエル代表は、投手16人、野手が12人と、かなり投手に偏った編成だ。
代打や代走を送り込めるほど、野手の代わりがいないのだ。
しかし、ここで勝負に出る。
三塁ランナーに代走を送り込み、ここで勝負を決めるという決断を見せた。
そして、小技のできなさそうなイスラエルが、スクイズを試みる。
しかし、失敗!!
幸運なのは、投手へのフライになったため、三塁ランナーが生き残ったこと。
イスラエルのチャンスは続く。
次のバッター、バーチャムは、林昌勇の球に強気で向かっていったが、セカンドが打球に飛びついた。
ここまでか、と思いきや、セカンドは打球を捕るのに精一杯で、どこにも投げられず。
内野安打で、奇跡の追加点が入った。
10回裏、韓国の攻撃。
韓国打線は意気消沈したか、3人で攻撃終了。
WBC本線初出場のイスラエルが、まさかの1勝をあげたのだった。
笑顔
試合後、マウンドに集まる選手は、皆、笑顔だった。
野球が楽しい、勝つことが嬉しい、といった、子供のような笑顔だった。
イスラエル代表は、普段はプレーする機会がなかなかない選手たちだ。
試合に出られるだけでも、嬉しいのだろう。
しかも、強いと言われる相手と試合ができるのは、ワクワクするのだろう。
そして、勝利!
野球が楽しくて仕方がない、という笑顔だった。
韓国や日本は、勝つのが当たり前、というプレッシャーの中で戦っている。
プレッシャーを力に変えることで、更に強くなる選手たちだ。
しかし、ただ野球が好き、ただ楽しい、といった気持ちから生まれる力もあるに違いない。
そう思わされる、イスラエル代表の勝利と笑顔だった。
この先も、イスラエル代表から、目が離せない!