居酒屋の宴会コースにおける鍋の役割について
先日、会社の新年会があった。
幹事の私は、料理8品と飲み放題で1人5000円という居酒屋を会場に選んだ。
新年会当日
さて、当日。
乾杯の後、料理が運ばれて来た。
まずお刺身。同時にサラダ。
その直後に、モツ鍋が登場した。
ここでモツ鍋!?
私の感覚では、居酒屋の宴会コースで鍋が出るのは最後の方という印象だった。
鍋を食べ、残りの出汁で雑炊かうどんの締めを作り、デザートが出て終了。そういうイメージだ。
それなのに、会の冒頭でいきなりモツ鍋が登場したのだ。
事前に鍋だけ運んで置いて、火をつけるのは後かな?と思ったが、店員さんはコンロに火をつけて去っていく。
まさかこれで終わりということなないよなと心配になり、こっそりスマホでこの店の8品コースの内容を確認した。
揚げ物や焼き物など、まだ出ていない料理があるはずで安心したが、なぜこのタイミングで鍋料理なのかは疑問に思った。
そしてこんな店を選んで失敗だったかという思いが頭をよぎった。
この思いが、くだらないこだわり、もしくはただの思い込みに過ぎないことにすぐに気づくこととなる。
鍋の意外な効用
会社全体の飲み会は、必ずしも仲がいい人だけが近くに座るとは限らない。
普段話さない人が隣になることもしばしばだ。
会が始まった直後は特に、何を話していいか分からずにギクシャクする。
普段はそんなことしないくせに突然サラダを取り分けたりするのは、手持ち無沙汰な状況を少しでも回避するためだ。
お酒が進み、場が温まるまでは、どうにもこうにも気を遣う。
そこに、鍋だ。
モツ鍋には蓋がない。
これがとても良かった。
「モツ鍋ですね」
「キャベツ沢山で嬉しいですね」
「最近野菜が高いですものね」
「沸騰して来ましたね」
「かき混ぜた方がいいんですかね」
「吹きこぼれそう」
「火を弱めますか」
「あ、にんにく出て来た」
皆で鍋を見つめ、とりあえず取り留めのないことを話す。
箸でキャベツをつついたりする。
刻一刻と状況が変わる鍋は、手持ち無沙汰な状況を乗り切るための話題を常に提供し続けてくれるのだ。
お刺身だけだとこうはいかない。
「これ何でしょうね」
「マグロじゃないですかね」
「やっぱりそうですよね」
そうなのだ。
3行で話が終わってしまうのだ。
ここから話を広げようとしても、知識レベルに差があると話が噛み合わず、話している方も聞いている方も辛い状況になる。
「マグロといえば大間ですよね」
「はあ」
「大間のマグロといえばクロマグロですよね」
「へえ」
「大間では30kg以上のクロマグロには識別シールを貼っていて、どの漁師が獲ったマグロか分かるようになってるんですよ」
「ほお」
「過去に1億を超える値段で取引されたマグロもあるそうで」
「ひい」
動かないマグロを見ながら会話を続けるには、お互いの知識レベルと会話スキルが合致する必要があるのだ。
しかし、鍋は懐が深い。
目に映るものを口にしていれば、ぽつぽつと話が進んでいく。
鍋の効用・2
鍋は出来上がってからも優秀だった。
宴会コースだと、お刺身は1人1切れ目安で運ばれてくる。
お腹が空いた人だとまず1切れ食べる。
お酒を飲んだら食べない人は手を出さない。
大皿の上には半端に刺身が残る。
お腹が空いている上に手持ち無沙汰だと、刺身でももっと食べておきたい心境になるが、1人1切れである以上、手を出しづらい。
次の皿が来て、置く場所が無くなって初めて「お刺身まだ食べてない人いませんかー?いらないなら食べちゃいますよー」と声がかかり、ようやくお腹が空いている人のお腹の中に刺身が納まる。
だが、鍋はいい。
とりあえずメインの具を取り分けておけば、あとは自由にお腹が空いた人がお代わりして食べられる。
常に食べ物が目の前にあるので、次の料理がなかなか出てこない時の、あの微妙な間を味合わなくて済む。
こうして鍋が場を繋いでくれている間に、お酒がいい感じに進み、場が和んだ。
会が始まってから30分程度の一番居心地が悪い時間を、見事に鍋が埋めてくれたのだ。
その後、順調に天ぷらや焼いた鶏肉などが出て充分に満腹になった。
他のみんなも飲みたい人は飲み、食べたい人は食べ、それぞれ満足できたようだった。
こだわりよりも大切なもの
なぜ私は、鍋は食事の最後に食べるものだと思い込んでいたのだろう。
実際、居酒屋の宴会コースはそういう組み立てになっているところが多いような気がする。
もしかしたらそれが和食の自然な流れなのかもしれないが(ちなみに適当に言っている)、親睦のための気楽な宴会なのだ、会がスムーズに流れる方がいいではないか。
なんで私は目くじらを立てたのだろう。
逆にいうと、自分の勝手な思い込みやくだらないこだわりが、会の進行を妨げることもあるということだ。
自分の小さな思い込みにまた1つ気が付いた夜になった。
※冒頭の画像はイメージです。本文とは関係がありません。
※お刺身は大好きです