『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』キューバはどこかにあるユートピアなのか
今読みたい本
本を10冊ほど売った。
つい最近買って、まだ読んでいない本も数冊あった。
最近、自分自身が大きな変化を起こした感覚があって、それまで読もうと思っていた本に魅力を感じなくなってしまったのだ。
せっかく買った本を読まずに売るのは勿体無い。
そんな貧乏根性もあるが、自分の変化に素直になろうと思ったのだ。
それでは今、読みたい本は何だろう?
手に取ったのが、この本だった。
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬
キューバを目指す
著者はオードリーの若林正恭さん。
とはいえ、本の内容は、いわゆる芸人本ではない。
旅行記と言われれば、旅行記だ。
2016年に若林さんがキューバに旅した際の記録である。
しかし、書かれているのは、キューバの情報ではない。
確かにそこに書かれているのはキューバの話なのだが、キューバの話ではないような気がする。
古い例えで恐縮だが、それは、愛の国ガンダーラのようなものだ。
ガンダーラと呼ばれた土地は、確かにある。
実際にそこにいけばどんな夢も叶うのだろうか。
それはただの象徴で、どうしたら行けるのか、誰にも教えられないものなのだろうか。
若林さんが目指したキューバも、キューバであって、キューバではない。
アメリカや日本といった資本主義社会に席巻する新自由主義を、若林さんはこう言う。
「超富裕層」「格差」「不寛容社会」
勝っても負けても居心地が悪い。
いつもどこでも白々しい。
持ち上げてくるくせに、どこかで足を踏み外すのを待っていそうな目。
…そうなんだよ。
誰かの常識を少しでも外れただけで、叩かれる社会。
一度でも足を踏み外したら、谷底まで蹴落とすこの社会。
誰がどこで見ているか分からない。こんな社会が怖いんだ。
そう思った私にも、若林さんの目指すキューバは魅力的なところに思えた。
所詮、新自由主義だって人間が作ったシステムの一つなのだ。
このシステム外の国、それがキューバなのだ。
キューバにて
現地で動けるのは3日だけ。
短期間であるが、キューバを味わいつくそうとする若林さん。
革命博物館、カバーニャ要塞、チェ・ゲバラの邸宅。
観光地だからこそ見えるもの。
旅行者だからこその失敗。
失敗したからこそ見えるもの。
現地の人々の生活を垣間見る。
ゴミくさい路地だからこそ見えるもの。
そして気づく。
日本自由競争は機会の平等であり、結果の不平等だろう。キューバの社会主義は結果が平等になることを目指していて、機会は不平等といえるのかもしれない。
求めていたものは、街の日常の中にあった。
それは、人間同士が話しているときの表情。
競争相手ではない、血の通った関係の人間同士が見せる表情。
本当のこと
最終章でキューバに来た本当の理由が明かされる。
思いがけない理由で、胸が詰まる。
アメリカのバンドのイーグルスの歌が、日本とキューバを繋ぐ。
Take it Easy (無理をしないで、気楽にいこうぜ)
若林さんは言う。
キューバに行ったのではなく、
東京に色を与えに行ったのか。
だけど、この街はまたすぐ灰色になる。
そしたらまた、網膜に色を映しに行かなければぼくは色を失ってしまう。
キューバは決してどこかにあるユートピアではない。
でもしかし、確かにそこに、存在する国だ。
そして、訪れる人に、何かを教えてくれる国なのだ。