天職との出会いは、一枚の新聞折込広告だった
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一枚の折込広告
仕事を辞め、即カナダで遊び回っていた私は、帰国後、ようやくこの先のことを考えるようになった。
まず最初にしたのは、新聞の購読だった。
当時はまだタウンワークといったアルバイト情報誌は普及していなく(インターネットも一般的ではなく)、新聞の折込チラシが仕事募集の主な媒体だったのだ。
そこに挟まれた1枚のチラシが私の目を引く。
天職との出会い
あなたも3日で簿記3級!
ある日、新聞に挟まれた1枚のチラシ。
そこには、「あなたも3日で簿記3級が取得できる!」と書いてあった。
簿記が何をするものかすら全く知らない私が、そのチラシに興味を持ったのには理由がある。
ゴンドウさん
先日辞めた一社目の会社。
この会社は社長一族が牛耳っている会社で、社長の言うことは絶対正しいという会社だった。
しかし、一人だけ、社長一族ではないのに、社長と対等に意見を交わすことができる人がいた。
そして、社長一族ではないのに重要な役職についている唯一の人であり、役職についている唯一の女性だった。
その人は、経理部長のゴンドウさん。
私の母親ほどの年齢の、小柄で働き者のパワフルな女性である。
ゴンドウさんは給与支給日の数日前になると、福岡の営業マンを集めてこう言った。
「あんたたち!明後日までにあと100万円集めてこないと、給与が払えないからね!」
当時は、営業が顧客を回って集金をしていたのだ。
それを聞くと、慌てて営業マンは客先を回って集金に精を出す。
「あんたたち!手形の先日付はいいけど、小切手の先日付は絶対ダメだからね!」
そうやって集金したお金をゴンドウさんに渡すと、給与日に給与が手渡される。(当時は現金支給だった)
ゴンドウさんは、社長が何か思いつきで新しいことをしようとするときに、「そんなことしたら経営が回らない!」と社長に直訴していた。
他の社員が同じことを言ったら怒鳴られて終わるだろうが、ゴンドウさんの話には社長も耳を傾けた。
ゴンドウさん、すごい!
私は密かにゴンドウさんを尊敬していた。
そして、経理という仕事に、ゴンドウさんのパワーの秘密があるのではないかと思ったのだ。
軽い気持ちで申し込む
そんなときに目にした、「あなたも3日で簿記3級が取得できる!」というチラシ。
「へええー!簿記かあ!3日だけだし、値段も安いし、ちょっと行ってみようかな」
こんな軽い気持ちで申し込んだ簿記講座が、このあとの私のキャリアの中心になるのだから、人生とは分からないものである。
簿記3級講座
結論から言うと、3日で簿記3級に合格するなんて、全くの嘘だった。
確かに講座は3日間だけだったが、家で大量の自習をしなくてはいけなかった。
しかし、私は簿記がとても気に入った。
簿記とは何か
簿記とは、日々のお金の動きを記すことである。
仕訳という世界共通の言語を使って、会社の日々のお金の動きを一つ一つ記していくのが簿記だ。
それをまとめたのが、総勘定元帳。
そして、一年分のお金の動きをまとめて一冊の本にし、あらすじを作るのが、決算である。
簿記の魅力
簿記の基本の考え方に「貸借が一致する」というものがある。
「貸借」という言葉が分かりにくいが、簡単に言うと、どこかでお金が動いた時は、裏でも同じ金額分の何かが動いている、ということである。
例えば、こうだ。
・1万円の時計を手に入れる。一方で、財布から1万円が減る。
・財布に3万円の現金が入る。一方で、借金が3万円増える。
・借金を3万円返す。一方で、銀行口座から3万円減る。
全ての取引において、お金が動いた時は、裏でも同じ金額分の何かが動いている。
この考え方にとても共感した。
「無料より高いものはない」と言われるが、これも裏で何が動いているかを知らないで飛びつくから起きることである。
簿記にはまる
仕訳をする際には、表のお金の動きと裏のお金の動きを読み取ることが必要になる。
それをまとめて計算し、表と裏の金額がピッタリ合ったときの気持ちよさと言ったら、この上なかった。
私はすっかり簿記にはまって、家での自習も夢中になってやった。
そして、無事に簿記3級に合格した。
そして、調子に乗った
簿記3級に合格した私は、喜びのあまり調子に乗った。
簿記って面白い!これを仕事にしたい!
簿記を使う仕事って何だろう?
そうだ、税理士だ!税理士になろう!
通常、簿記3級に受かった人は、次は簿記2級を目指す。
しかし、簿記3級に合格して舞い上がった私は、税理士試験の難しさを全く知らないまま、税理士を目指すことにしたのだ。
いやはや、無知とは、怖い。
しかし、無知だからこそ、開かれる道があるのだ。
次回に続く
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