「話し方がきつい」と部下から言われた上司の話
部下にきついと言われた上司
話し方がきつい?
会社の同僚が「俺って話し方きついかな?」と聞いてきた。
部下が、話し方がきつくて辛い、と言っていたらしい。
「指示するときも懇切丁寧に説明してるんだよ?注意するときも、イライラしてもそれを抑えて接してるんだよ?これ以上何を優しくしろと言うんだよ。」
たぶん、問題は、そこではない。
問題は常に発生している
彼の日常を見てみる。
部下が近づいてきた。「◯◯さん、資料できました。」
彼はパソコンの画面から目を離さずに答えた。「ん、そこ置いておいて」
電話が掛かってきた。「◯◯さん、××さんからお電話です。」
顔を上げずに無言で受話器に手を伸ばす。「あ。お電話かわりました、◯◯です。」
一事が万事、この調子だ。
全く部下の顔を見ようとしない。
足りないのは信頼関係
あの人とこの人の違い
同じことを言われても、あの人に言われると素直に聞けるけれど、この人に言われるときつく感じる、ということがある。
普段から自分の働きぶりを見ていて、いいところを認めてくれているあの人になら、注意されても素直に聞ける。
でも、普段、こちらが何をしようと無関心なこの人に、思いつきのように注意されたら、なんかムカつく。
伝え方のテクニック等も多少は関係あるかもしれない。
しかし一番肝心なのは、その人との間にどれだけの信頼関係があるかということだ。
信頼関係の基本にあるもの
彼は言う。「信頼?まだまだ一人じゃ何もできないのに、何を信頼すればいいんだよ?」
信頼関係の基本は、「私の存在を認めてくれている」と思い合えることだ。
「私はここにいていいのだろうか」と思う環境では、何を言われてもびくびくしてしまう。びくびくしていると、集中力がその感情に奪われるため失敗が多くなる。失敗するとますます「私はここにいていいのだろうか」と感じて悪循環に陥る。
そんな部下たちを見て、信頼できないと彼は思っているのだが、そういうびくびくする状況を作り出しているのは、彼自身である。
仕事の出来がまだまだでも、人として信頼できる部分は何かしらあるはずだ。(人として全く信頼できない人を採用したりはしないはず)
その部分をきちんと見つけて、認めているだろうか。
そして、「相手の存在を認めること」が信頼関係の基本と分かれば、資料を作った部下の顔をチラリとも見ず、電話を取り次いだ人に何も声をかけないといった、相手を無視するような彼の対応が、どれだけ最悪かが分かるはずだ。
信頼関係を作るには
信頼関係を作る魔法の言葉
「じゃあ、何をすればいいんだよ」
とても便利な言葉がある。
私はあなたの存在を認めています、と伝えることができる魔法の言葉だ。
ありがとう
1日にどれくらいありがとうと言っているだろうか。
ありがとうを言う機会は山ほどあるはずだ。
資料を作ってくれてありがとう。電話を取り次いでくれてありがとう。
落ちてたゴミ、拾ってくれたんだ、ありがとう。
空調暑いな…あ、温度下げてくれる?ありがとう。
当たり前のことにありがとうは必要?
「そんなのあいつらの仕事だろ?当たり前のことしてるだけだろ?なんでお礼を言わなきゃいけないんだよ」
当たり前のことと思えても、それを相手が当然のようにしてくれると、期待するのは、甘えだ。
当たり前のことだって、相手にはそれをしない自由がある。
責任感だったり優しさだったり、そういうものがベースにあるから、相手がその当たり前をやってくれているのだ。
相手の責任感や優しさに、お礼を言ってもいいではないか。
ありがとうを言うのは面倒くさい?
「いちいちそんなの面倒くせえよ。いつまでも続けてらんねえよ。」
信頼関係とは、貯金箱のようなものだ。
コツコツと貯めることができる。
自分の存在が認められていると感じたら、残高が増える。
無視され見下されていると感じたら、残高が減る。
残高がある程度貯まると、少しくらい失敗しても、残高を引き出して補えるので、信頼関係は揺るがない。
残高が少ないと、ちょっとしたことですぐに残高が0になる。
自分の銀行口座が0円で、財布の中も空だったら、何か突発的な出費が発生しないかヒヤヒヤしながら過ごすことになるだろう。
信頼残高も一緒だ。
残高が0、もしくはマイナスならば、困ったことが起きないように余計な神経を使いながら生活することになる。
こういう生活の方が、精神的に良くない、面倒な状況だ。
人間関係と信頼残高
彼の部下たちは、彼のことを「話し方がきつい」と言った。
彼はそれを文字通り受け取って、俺の話し方のどこが悪いんだ、と思った。
しかし問題は彼と部下たちの間の信頼残高が少ないことで、そのため、彼と接することがきつくなっているのだ。
仕事に限らず、人と人の間には、信頼残高が少ないことから発生する問題がある。
誰かとの間がしっくりこないとき、いくら相手の要望に応えても事態が改善しないと感じるならば、「ありがとう」と口にすることが解決の糸口かもしれない。