事実は現場にあり。リスト通りに存在しない固定資産を把握するために工夫したこと
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前の記事はこちら→経理部での最初の仕事のマニュアル作成も経理部長の慧眼のたまものだった
私の担当
業務の引き継ぎを受けながら、マニュアルも完成した。
これからは担当業務に邁進するだけだ。
B/S照合
私が担当することになった業務の1つが「B/S照合(ビーエスショウゴウ)」と社内で呼ばれていた業務だった。
B/S(貸借対照表)に記載されているものが、実際に記載通りにあるかを確かめる仕事である。
家計簿をつけたことがある人ならほぼ全員が、家計簿上の残高と、実際の財布の中身に差がある経験をしたことがあるだろう。
これと同じことが会社でも日々起きるのだ。
「え?会社でもそんなことが起きるの?」
私も経理に着任したときはそう思っていたので、この業務が存在する意味がわからなかった。
これも家計簿をつけたことがある人なら分かるだろうが、毎日家計簿をつけていれば、ほぼズレは出ない。
出ても原因がすぐにわかる。
しかし、何日も何週間も家計簿付けをさぼってしまうと、ズレは大きくなり、原因もわからなくなる。
会社も同じだ。
日々帳簿をつけてチェックをしていれば、ズレは起きないし、原因も分かる。
しかし他の仕事に忙殺されてチェックの期間が長くなればなるほど、ズレの原因は不明となる。
そしてズレが起きたまま次の処理がその上に乗り、ますますズレは複雑化していく。
家計簿であれば気にするのは現金と預金残高ぐらいだが、会社にはチェックすべき項目が他にもたくさんある。
あちこちで原因不明のズレが発生するのだ。
「え?それは良くないんじゃないの?」
そう、そのとおりだ。
会社だからこそ、ここはきちんとしないといけない。
そこで担当業務が多くない、時間がたっぷりある新入りの私に白羽の矢が立った。
私にはズレの解明と、ズレが起きないようにすることと、ズレてもすぐに発見できる仕組みづくりが求められた。
固定資産の確認
会社がチェックすべきB/Sの項目の中には、固定資産も含まれている。
私は同時に固定資産税の申告担当にも就任した。
時は2001年10月末。
固定資産税の申告期限は1月末だ。
期限まであと3ヶ月あるが、ぼんやりしていたら3ヶ月くらいすぐ過ぎるので、まず固定資産からチェックすることにした。
チェックするのは元帳と台帳と現場
固定資産の確認は、元帳(B/S)と台帳と現場と3つを比較しないといけない。
元帳は家計簿のようなもの。
台帳はリスト。
現場は現地のことだ。
もしマンガ本を集めている人がいるとする。
その場合、家計簿の中からマンガ本を買った項目を抜き出したものが元帳、持っているマンガ本のリストが台帳、実際に本棚に並べられているマンガ本が現場を表す。
家計簿の中にマンガ本を10冊買ったと記録があれば、マンガ本リストにも10冊のタイトルが並んでいるはずだし、本棚の中には10冊のマンガ本が入っているはずだ。
家計簿では10冊買ったとなっているのに、リストには11冊あるのなら、家計簿に記入漏れがあるかもしれない。
更に本棚の中に12冊入っているのなら、誰かから借りて返していないものがあるのかもしれない。
これを一つずつ地道に調べていくのがB/S照合という仕事である。
元帳と台帳
私はまず手元にある元帳と台帳を見比べてみた。
どちらも経理が作るデータなのだが、案の定ズレている。
一つ一つ元帳と台帳のデータを照らし合わせて、どこがズレているかを探していく。
ズレの原因は例えばこういうものだった。
・元帳では消費税込の金額を計上して、台帳では消費税抜きの金額を記載している
・固定資産を廃棄したことを元帳では計上していて、台帳には記載していない
細々した作業なので根気はいるが、やがて元帳と台帳の内容がピッタリと合った。
台帳と現場
固定資産を購入する時は、必ず経理に請求書が回ってくる。
元帳と台帳を合わせたことで、請求書の内容をきちんと台帳に反映することができた。
まさか台帳と現場とでズレが発生するはずはない。
そう思ったのだが、他の経理メンバーは口を揃えて「世の中そんなに甘くない」と言う。
年に1回、固定資産税申告の時に、現場から固定資産の増減の状況を教えてもらっているらしいのだが、いまいち上手くいっていないようだった。
とりあえず現場に行ってみることにした。
固定資産のリストである台帳には、その固定資産がどこの支社に設置されているかも書かれている。
経理が入っているビルの別フロアに営業部隊がいるので、その部署の固定資産台帳を印刷し、そのフロアを訪ねてみた。
現場にて
さっそく私はその部署の営業アシスタントに話しかけた。
「このフロアにシュレッダーあると思うんですけど、どこにありますか?」
「シュレッダーは3台あって、これと、あと向こうの隅っこと、反対側の隅っこにもあります」
「え!?シュレッダーは2台だと思うんですけど…」
私の手元の台帳には、シュレッダーは2台しか記載されていない。
でも実際に見てみると、確かに3台ともシュレッダーである。
データはただのデータであって、データと現実が異なる場合は現実が正しい。
確かに、データは、認知の歪みを取るためにはとても有効である。
なぜなら、現実の認知には思い込みのバイアスが掛かるからだ。
しかし、データに拘りすぎると現実を見失う。
繰り返すが、データと現実が異なる場合は現実が正しい。
そういうわけで、私もシュレッダーが3台ある現実を認めざるを得なかった。
現場で廃棄したものを経理に連絡し忘れることはあると思っていたが、経理が把握していないものが存在するとは思わなかった。
どうしてこんなことが起きるのだろうと思って話を聞いてみると、シュレッダーのうち1台はリース契約しているものだった。
リース契約は購入ではないので固定資産台帳に載らないのである。
理由がわかって一件落着したが、問題は残った。
管理する側にとっては購入したシュレッダーとリースのシュレッダーは大きく違うが、使う側はどちらも同じシュレッダーでしかない。
今回は営業アシスタントさんがリースの経緯を覚えていたので良かったが、この営業アシスタントさんが異動になって新しい営業アシスタントさんが来たら、それこそ何が起きたかわからないだろう。
また固定資産である残り2台のシュレッダーは、購入時期が違うのだが、見た目ではどちらが古いかわからない。
もちろんシリアルナンバーを調べればわかるのだが、それはとても面倒だ。
この先廃棄するときには経理に連絡を貰うことになるが、廃棄するのが古い方か新しい方か、その都度確認するのは大変だろう。
何らかの対策を取らないといけない。
固定資産を把握するための対策
同じビルの営業部隊をいくつか回って、やるべきことがはっきりと分かった。
とにかく、このリクルートという会社は、人の異動が激しく、オフィスの中のレイアウト変更も激しい。
人が変わっても備品の置き場が変わっても、固定資産を管理できるようにする対策が必要だった。
対策を2つ考えた。
1つ目は、どれが会社が管理している固定資産かを外から見てもわかるようにすること。
2つ目は、担当が変わっても、固定資産がどこにあるかをわかるようにすること、である。
固定資産かを外から見てもわかるようにする
経理が管理している固定資産が一目で分かるように、目印をつけることにした。
既に経理の固定資産台帳上では、各固定資産に管理用のコードが振られている。
テプラでそのコードが書かれた固定資産シールを作り、その固定資産の現物に貼るようにした。
そうすれば、その資産の購入時期がわからなくても、固定資産シールの番号を教えてもらえれば、固定資産台帳上のデータとすぐに照合ができる。
なお、固定資産シールを貼る時は、営業アシスタントさんに貼ってもらうように心がけた。
近い拠点なら私が代わりに貼っても良かったが、他人が貼ったシールより、自分で貼ったシールの方が、まだ少しは記憶に残るだろう。
固定資産がどこにあるかをわかるようにする
例えばシュレッダーを新しく増やす時、前からいる人は「窓側が古い方、扉の隣が新しい方」とわかるが、新しく入社してきた人にはそれはわからない。
それをサポートするために、総務に行って、全支社のオフィスの見取り図をコピーさせてもらった。
そして、その見取り図に全固定資産のありかを書いて、支社ごとの固定資産地図を作った。
経理が入っているビルの近くの拠点は自分で出向いて地図を作り、遠方の支社は見取り図を営業アシスタントさんに送って電話で話をしながら作っていった。
完成した地図は、固定資産税申告の時に現場に送り、この地図通りに固定資産があるかどうかを確認してもらうようにした。
もし場所の移動があれば、新しい場所を地図に書き込んでもらう。
新しく購入したものについては、固定資産シールを送り、置いた場所を地図に記載してもらう。
去年あったものが無くなっていたら、廃棄したことを経理に連絡し忘れているということだ。
この見取り図は現場にも「わかりやすくなった!」と好評で、経理側でも固定資産の把握がやりやすくなった。
次回に続く
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