ひょんなことで役員会議に参加が決定。「経営者視点」を学ぶ貴重な機会となる
シリーズ「会社員の歩き方、私の場合」の過去記事リストは→こちら
前の記事はこちら→事実は現場にあり。リスト通りに存在しない固定資産を把握するために工夫したこと
役員会議に参加が決まる
入社して半年経ったくらい頃、細かい経緯は忘れてしまったが、こういうことがあった。
経理部長との雑談の中で、役員会議の話が出た。
役員会議は正式名称が「経営委員会」、略称「K会」と呼ばれ、役員と執行役員に加え、経理部長がオブザーバーとして入り、月に2回開催されていた。
部長が経営委員会の話をした時に、私が何の気なしに「面白そうですね」的なことを言ったのだと思う。
すると部長は「お前も出るか?」と返してきた。
てっきり冗談だと思って「いいですね」と答えたら、「じゃあ、次のK会からお前も参加ね。社長には言っておくから。」と、私も会議に参加することが決まってしまったのだ。
リクルートあるあるとして、「やりたいと言ったらやることになる」というのがある。
なんせ「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」が社訓だった会社なのだ。
冗談でもやると言ったらやってしまうのである。
なので、本気でやりたい人は手を挙げるし、本気じゃない場合は余計なことは言わないのが暗黙のルールなのだが、当時の私はまだこの掟を知らなかったために、予想もしてない展開になってしまった。
経営委員会で学んだこと
経営委員会に参加といっても、もちろん役員の皆様とは同じテーブルにはつかない。
私は事務局として、会議室の片隅でメモを取る役目になった。
事前に議題を集め、当日のタイムスケジュールを作る。
お弁当を手配し、お茶を用意する。
会議中はメモを取り、終わったら議事録を作成して、全社員に広報する。
これが私の仕事だった。
なお、議事録は私が作るようになる前は経理部長が作成していた。
今思うと、もしかしたら部長は自分が作るのが面倒になっていて、誰かに仕事を渡したかったのかもしれない。
思いがけず参加することになった経営委員会だったが、私にとっては大きな学びの時間となった。
特に印象に残っている3点を紹介させてほしい。
ポジションによって見える景色が違う
経営委員会に出て、ポジションによって見える景色が違うことを目の当たりにした。
経営委員会は、社員の誰か(主に部長、時々課長)が議題を持ってやってきて、役員の前でプレゼンをする。
それを皆で話し合い、結論を出す。
部長が出してくる議題は、現場のことを考え抜いている。
なるほどと頷きたくなる案件ばかりだ。
しかし、役員たちがすぐに首を縦に振ることはない。
それをやることで全社にどのような影響が加わるのか、といった会社全体を見る視点。
これまで会社が積み重ねてきた信頼を裏切るものではないか、といった会社の軸を見定めるための視点。
同業他社や親会社との関係性など、横の繋がりを確認する視点。
将来会社が進む方向に合っているかの視点。
現場からの提案は、今この瞬間の直接的な関係者間においては最善の提案である。
だが、役員たちは時間的にも空間的にももっと広いところを見ていて、あらゆる角度から検討を加える。
それまで役員会の決定で「偉い人は現場のことを何も分かってない」と思うこともあった。
でもそうではなかった。
現場の人とは違うところを見ているだけなのだ。
私みたいな一介の社員が思いつくことは、役員たちは皆理解して検討している。
その上で、更に高い視点と広い視野で決断をしているだけなのだ。
ただ、だからこそ、現場で起きていることや現場の人間が考えていることを、きちんと上層部に伝えることが大切なことも認識した。
現場で起きていることをきちんと伝えて、その上で高い視点と広い視野で判断してもらうのがベストだ。
この会社の役員たちは、現場の言葉に積極的に耳を傾けてくれた。
現場の声に耳を傾けた上での議論であれば、もし反対されても納得することができるのだ。
備えがあるリスクはリスクではない
議案について、あらゆる角度から検討するが、決して保守的な訳ではない。
基本的に変化が好きな会社なのだ。
困難が予想されても「GO!」となることも多々あった。
提案された事項を行うことでどんな影響が起きるかを検討する。
いい影響もあるが、悪い影響も予想される。
悪い影響があっても、いい影響もあるなら、前に進む決断がなされることが多かった。
それは、想定されるリスクは、事前に対応策を用意できるのであればリスクではない、という考え方が根底にあるのだと思う。
リスクに対する備えを念入りに行なったうえで、リスクたっぷりの道に踏み込むことは、リスクではないのだ。
やるときは自分ごととしてやる
当時の社長は温厚な人だった、と社員は皆思っていたと思う。
コロコロした体型と舌っ足らずな話し方が相まって、「かわいい」と表現されるタイプの社長だった。
そして、決して怒ることはなかった。
しかし、社長を昔から知る人は「とても短気な人だよ」と言う。
本人に聞いてみると、「うん、僕、短気。でも今は社長だから怒らないようにしてるの」と言っていた。
この社長が激怒したところを、私は一度だけ見たことがある。
経営委員会の場だった。
とある課長が、新しく始めた施策の報告をしたときだった。
残念ながら、それはまだ軌道に乗っていなかった。
課長はこの新しい施策は間違っていると思うと言った。
社長はその課長に「どうしてこの施策をしたの?」と聞いた。
「先月のK会で決まったからです」と課長は答えた。
その瞬間、社長は机をバン!と叩いて怒鳴り声を上げた。
社長はこう言っていた。
確かにK会で決まったことだ。
でも、なぜそれをするのか分からなかったら、分かるまで質問しろ。
それをすることに納得がいかなかったら、納得がいくまで反論しろ。
やると決めたなら、やらされるのではなく、自分ごととして取り組め。
会社が決めた方針を自分ごとにするためにこの場がある。
上司が「やらされている」と思っていることを、実際にやらされるメンバーが自分ごととして取り組むと思うか?
自分ごとではないやらされている仕事に身が入るか?
管理職が自分の言葉でなぜこれをするか説明できない仕事を、メンバーがやるはずはない。
真剣に取り組んだ上で、この施策が間違っていると言うなら、話を聞く。
最初からやる気がないなら、やり始める前に言え!!!
会議室は凍りついた。
激しい剣幕で怒鳴る社長に驚きすぎて、この後この場がどうやって収束したのかは記憶にない。
ただ、このとき社長が言ったことは、あのときの情景とともにくっきりと覚えている。
議事録
心残りは、全社員送付用の議事録にはこういった話を書けなかったことだ。
議事録には「〇〇さんからこういう提案がありました。話し合いの末、承認されました」としか書くことを許されなかった。
K会の場では、全社秘の事柄が話題に出ることも多かったので、情報が漏れることを防ぎ、半端な情報で社員を不安にさせないためである。
私はこの先、何社も転職するが、行く先々で「経営者の視点がある」「経営者と現場の両方の気持ちがわかる」と評価されてきた。
それは、この会議に数年間参加したことで身についたものだと思っている。
このときの学びを、生々しい空気とともに全社員にリアルタイムで伝えたかった。
それをする意義を、当時の私は部長に上手く伝えることができなかったため、私が一人でひっそりと胸にしまうことになった。
あのときの自分の力不足が、今でも悔しい。
次回に続く
次の記事は→B/S照合、残った難関。連絡が取れない相手と仕事を進めるにはどうすればいいのか
シリーズ「会社員の歩き方、私の場合」の過去記事リストは→こちら