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ブラック企業とヤクザの共通のワザ 『ヤクザの実戦心理術 金融地獄編』向谷匡史著

2017/10/13

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ブラック企業で自殺というニュースを見て、「どうして辞めなかったのだろう?」と思う人は多いだろう。
私も前はそう思っていたのに、実際にブラック企業に入ってしまったら、全然辞めることができなかった。
何度も何度も辞めたいと社長に申し出たが、辞めきれなかった。

どうして辞められないのか、この『ヤクザの実戦心理術 金融地獄編』を読んでようやく理解できた。
ヤクザが使う手法と同じ方法で心をコントロールされていたのだ。
この本は2002年に出版されたものだが、心を操る手法は今も全く変わっていない。

この本を参考に、ブラック企業が社員を辞められなくするための具体的な手法を紹介する。
この先、「金融ヤクザ」という言葉が多く出てくるが、これは「ヤミ金融などの違法の金融業に関わるヤクザ」のことを指している。

社員を支配下に置く方法

新入社員が来たら、早急に従順な奴隷にする必要がある。
そのための方法はこうだ。

潜在意識に恐怖心を植え付ける(p226)

この本のp226にこういう話がある。
金融ヤクザの身なりは、ダブルのスーツに金縁眼鏡をかけ、金無垢ロレックスにクロコダイルのバッグと、いかにもヤクザらしい服装で、態度もそのまんまヤクザだそうだ。
その理由は、一般人がヤクザに対して抱く恐怖心をそのまま利用するためである。

「あの人たちを本気で怒らせたら何をするかわからない」
という潜在的な強迫観念があるから、客はどんなことをしてでも返済しようと必死になるのだ。
そうでなければ、金を借りたくらいで、恐怖に怯えるわけがない。(中略)
肩身の狭い思いはしても、追い込まれてガタガタ震えることはないはずである。

この手法をブラック企業で活かそうとすると、手段は2つだ。
1つ目は、本人を怒鳴りつける。
2つ目は、誰かを見せしめにする。

1つ目の、「本人を怒鳴りつけて恐怖心を植え付ける」はわかりやすいだろう。
2つ目の、「誰かを見せしめにする」は、一人を怒鳴るだけでその場にいる人全員に恐怖心を植え付けることのできる、効率的な方法である。
そこにいる人は、自分が怒鳴られているわけではないため気づきにくいのだが、怒鳴られている人と同様に心に深いダメージを負う。
それが日常的に繰り返されると、潜在意識の中に恐怖が強く刻み込まれるのだ。

最初に一発かまして、負い目を感じさせる(p49)

相手を支配下に置くには、最初に相手に負い目を感じさせるとよい。

本に書かれているのはこういう例である。
ヤミ金融に頼る人は、何としてでもお金を借りたい人なので、自分をよく見せようとする傾向があるらしい。

客は借りたい一心から債務についてはウソをつく。客が、どこでいくら借りているかなど、ヤミ金に分かるはずもないのだが、この心理を熟知しているから、「お客さん、隠しちゃダメだよ」と、初っ端に一発かますことで、主導権を握るわけである。

一度嘘がバレると、嘘をついた自分を挽回するために、その後は高い金利を提示しても、反論せず言うことを聞くそうだ。

 

新入社員も、入社直後は張り切っているし、よく見られたいと思っている。
しかし、嘘をつくことはめったにない。
その場合は、負い目に感じるようなことを作り出せばいいのだ。

定刻通りに出社してきたら、「新人は30分前に来て掃除をしなくてはいけないのに何やってるんだ」と怒る。
到底こなせない量の仕事を渡して、仕事が遅いと怒る。
業務の引き継ぎをロクにしないで仕事を任せて、仕事の出来が悪いと怒る。
もし「30分も前に来いだなんて聞いてません」と反論されても、「口答えするな。素直じゃないヤツだ。」とそこを責めればいい。
こうやって、負い目はいくらでも作ることができる。

こうすれば、怒られたことに対して挽回しようとする本能が働き、多少無茶な要求をしても「はい!やります!」と答えるようになる。

 

相手に自分が悪いと思わせる方法

自分が悪いと思っているときは、相手の言うことを聞かなければいけないと思う。
更に、自分が悪いのが分かっている場合は人に相談がしにくくなる。
その心理を利用するために、相手に「自分が悪い」と思わせる方法がいくつかある。

論点をすり替えて責める(p25)

金融ヤクザが何と言おうとも、金利が法定金利を超えている以上、それは違法だ。
なので、客が法定金利について言い出す前に、客を責め立てる必要がある。
責めるのは「約束」という点だ。

お客さん、約束は守れって、親から教わって育ったんじゃないのかい。借りるときに、なんて言ったか思い出してくれよ。金利が高くてもいいから、ぜひ貸してくださいって、あんたが言ったんじゃないか。必ず返済します、約束しますって

「あんたが返すって言ったから貸したんだ、つべこべ言わずに返せ!」と、「約束を守らないあんたが悪い」という論点で責め立てる。

ブラック企業では、残業が法定残業時間を超えようと、残業代を払わなかろうと、「あんたがやるって言った仕事、終わってないじゃないか!」と責める。
「あんたがやるって言ったから任せたんだ、つべこべ言わずにやれ!」と責めて、社員に残業代不払いが違法だという点から目を逸らさせる。
この場合、社員が自主的に「やります」とは言っていない場合がもちろん多いが、無理矢理「やります」と言わせたことも棚に上げる。

「約束は守るもの」という倫理観を幼い頃から教え込まれていればいるほど、約束を守れと責め立てられると、強い罪悪感を持つようになる。

自分から言い出させる(p88)

ヤクザに対する規制は厳しくなっている。
そのことが知れ渡っているので、脅迫するようなことを言ったら、すぐ警察に駆け込まれる。
お金を返さないのが若い女性だとしても「体を売ってでも返せ」とは言いたくても言えない。
そこで金融ヤクザはこう言う。

「あんたも子供やなし、なんぞ方法があるやろ」
ヒントだけ告げ、強要することなく、あとは自分で考えさせるわけである。(中略)
自分で考え、自分で決心させることが重要なのだ。

例えば、社員に「お前の仕事ぶりは給与額に見合っていない」と責め続ける。
これで相手が「次のボーナスはいりません」「給与を下げてもらって結構です」とでも言ってきたら大喜びだ。

後は、金融ヤクザもブラック企業も「向こうが自分から言いだしたことなので」と知らんぷりである。

考えるスキを与えない(p90)

金融ヤクザだけでなく、ブラック企業にも後ろ暗い点はたくさんある。
例えば、土日祝も休みなく働かせている。残業代を払っていない。社会保険に加入してない。
相手がそのことを冷静に考えて、労基署に駆け込んだら、会社全体を巻き込むほどの面倒が起きる可能性がある。

だから、「亭主にバラすぞ!」と、一発かまし、「いいのか!」「どうする!」「家庭崩壊だ!」と、主婦に考えるスキを与えないよう、ブラフでガンガン追い込んでいって、若ければフーゾク、熟女ならデートクラブで働くように仕向けるわけである。
※ブラフ=威嚇、はったり

同じように、社員のことも常に怒鳴り続けて、思考回路を停止させておく。
やってもいないことで怒鳴られたりするのは、そういう理由もあるのだ。

 

逃げ出さないように連帯意識を高める方法

怒って責めて追い詰めるだけでは、いつ相手が反旗を翻すか分からない。
そうならないように、相手と自分は仲間だと、連帯意識を高めておくことも重要である。

「あんたは悪くない」(p32)

「気の毒やな、アンタも被害者やで」
この一言で、客はグラリとくる。気持ちが救われるのだ。
「好きでトイチの金引っ張る人間おるかいな。アンタは悪うない。不景気のせいや、政府のせいや、小泉のせいや…」
第三者のせいにすることで、客のプライドを保ってやり、「アンタも苦しいやろうけど、ワシらも苦しいんや」とやれば、客と金融ヤクザの間に連帯感が芽生え…(後略)

これは新興宗教で「今のあなたの苦しみは、あなたのせいではありません。五代前のご先祖様が成仏していないからです」と言って高額なお祓い料を請求するのと同じ手法で、広く使われる手らしい。

もちろんブラック企業でも使われる。
もしそこが支店・支社ならば、本社のせいにすればいい。
もし営業成績の話ならば、不景気や少子化のせいにすればいい。
他の同僚を貶めて、「あいつら使えないからお前も苦労するね」と言う方法もある。

普段、怒鳴られ続けている時にこういうことを言われると、心が一瞬ふっと緩む。
そのときに、肩をポンポンと叩いて、缶コーヒーの一本でもおごられれば、ついその相手に好感を抱いてしまう。

 

「オレだって、好きで怒鳴ってるわけじゃないんだぜ」(p111)

怒鳴りつけ、脅し、債務者をすくみ上がらせておいてから、一転「オレだって、好きで怒鳴ってるわけじゃないんだぜ」。
しんみりと語りかけ、「わかるよ、あんたの気持ち。でもよ、オレの立場もわかってくれよ。なっ?」この緩急で相手はホロリ。
(ヤクザみたいだけど、けっこういい人かもしれないな)と思い始める。

大変なのは自分だけではないと思うことで、連帯感を持つようになる。
相手に対して「いい人かもしれない」「相手も大変なんだな」と思うと、「その人のためにもうひと頑張りしなくては」という感情すら湧いてくる。

 

褒められて励まされれば、誰でも嬉しくなってくる(p142)

金融ヤクザは、客が期日に遅れてもきちんと返済してきたら

「あんたのことだから、遅れても必ず振り込んでくれると信じていたよ。大変だろうけど、頑張ってな」

と褒めて励ますらしい。
そうやって、客を嬉しくさせて、返済意欲を失くさないようにさせるのだ。

ブラック企業でも、命令したことをきちんとこなしたときは、「やればできるじゃないか」と褒める。
人は褒められると嬉しくなって、また褒められるように同じ行動を取る傾向がある。
自分の言うことを聞いた時にちゃんと褒めておけば、相手は無意識のうちに同じ行動を取るのだ。

このように飴と鞭を使い分けることによって、ブラック企業にがんじがらめにされていく。

 

ブラック企業から逃げる方法?

この本の中に、こうすれば会社から逃げられたのかな、と思う箇所があった。
私自身がこの本を読んだときには既に限界まで追い詰めれられていたので、実際に試す余裕はなかったが、紹介する。

被害妄想を炸裂させる(p68)

自宅近くのファミレスに呼び出して、ちょっと追い込みをかけたら、ワンワン泣き始めて、まいったよ。
「あたしが悪いの」「あたしがバカだったの」「死んで家族にお詫びしたいの」と号泣するんだから、アワくって店を飛び出したぜ。

これを読んで、その手があったか、と思った。
私も、怒られたときに、
「私にはそれをする能力がないの!このままでは給料泥棒になっちゃう!申し訳ないから、もうここにはいられない!」
と泣き叫んで、会社を辞めてしまえばよかった。

相手の期待に応えたいという本能と、会社で感情を出してはいけないという倫理観と、自分に能力がないとは言えないプライドで、自分を縛ってしまっていた。
実際やったら、社長はどういう反応をしただろう。
もっと早く気づきたかった。

感想

私がブラック企業にいたとき、周囲から「早く辞めろ」と言われても、辞めることができなかった。
自分にも至らない点があると思っていたし、まだまだ努力が足りないと思っていたし、社長が私のことを考えてくれているとも思っていた。

この本を読んで、社長の怒鳴り声も時折見せる優しさも、全てが人の心を操るためのものだったのかと知って、初めて目が覚めた。
自分が感じていた無能さも、罪悪感も、責任感も、全て心が操られていたから浮かんだものだと分かり、少しずつ自分を取り戻すことができるようになった。

ヤクザとブラック企業とは、一見関係ないように感じるかもしれないが、自分がブラック企業にいるかもしれないと悩んでいる人に、ぜひ読んで欲しい。
ブラック企業にいる人は、「自分がいるところはブラック企業と言えるのだろうか?」「これくらいで辞めたいと思うなんて、自分が弱いのだろうか?」と常に悩んでいる。
この記事には、私がいた会社の社長と金融ヤクザとの共通点をあげたが、本には他にもいろいろな心を操る手口が載っている。
もしこの本を読んで、一つでも当てはまると思うなら、そこは辞めたほうがいい。
普通にまっとうに商売するために、ヤクザの手法は必要ないのだから。

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