ホテリ・アアルトの夕食〜一人旅の連泊記
最近では外資系ホテルなんぞも増え、魅力を感じるのは確かだが、実際に訪問するのは旅館タイプの宿が多い。
私にとって、ホテルと旅館は何が違うのだろうと考えた時、「食事」というのが答えだと気がついた。
旅先で「何を食べよう?」と考えるのも醍醐味だが、たまには夕飯のことなど何も考えず、席につくだけで美味しい料理が目の前に出てくる生活をしたい。
その点、ホテリ・アアルトはホテルを名乗ってはいるが、全宿泊プランに食事がついており、私にとっては旅館とホテルのいいところどりになっている。
そんなホテリ・アアルトの夕ご飯。
2泊しているので、夕食も2回食べた。
それぞれを紹介する。
初日の夕食
初日。
さんざん温泉に入り、ちょっと仕事らしきものをして、日が暮れた後の楽しみは食事!
ホテリ・アアルトでは、夜のコース料理と、その他にお夜食が頂ける。
ディナー
地元・会津の天と地の恵みをお福分けしていただける食事の時間。
チェックインの際に決めた時間に食堂に向かう。
この日、予約サイトを見たら満室だったが、テーブルを見ると私の他にも一人客がいる。
一人でコース料理を食べることになるが、寂しさや気恥ずかしさはない。
飲食代は全て宿泊代に含まれていて、メニューに記載の飲み物は飲み放題!
食事の前にラウンジでスパークリングワインをいただいていたので、そのままの流れで白ワインをいただく。
一皿目。
お酒を味わいながら、これから始まる夕食へのテンションを高める一揃い!
まず、右の3皿。
右から、川俣シャモのレバーとアンチョビのペースト。
固めのペーストで、驚くほど生臭みがない。
右から2番目は、北海ニシンと北塩原で取れた山椒のマリネ。
鰊の旨味だけを掬い上げて、ほのかに山椒で香り付けしている。
黒い壺のような器に入っているものは、桜肉と青ネギのタルタルだ。
馬肉の甘さを感じる。合わせてある辛味噌が後味に辛味を加えてくれている。
次は左の2皿。
左側の赤い器は、玉こんにゃくのペペロンチーノにパンチェッタのチップを乗せたもの。
玉コンがそのままペペロンチーノになっている!
不思議な感覚。
最後に残る出汁とオリーブオイルが混ざったものが和と洋が融合した意外な美味しさ!
白い器は、相馬で水揚げされた水蛸のプロヴァンサル風。
プロヴァンサル風とは何だろう?と思ったけれど、よく知っているタコのマリネの味がした。
細かく切られたタコは歯切れが良く、食感がいい。
そしてこの前菜のお楽しみ。
お皿がズレないように塗られている八丁味噌!
次のお皿が出てくるまでのお酒のアテにする。
八丁味噌なら赤ワインか日本酒が良かったか、と考えることが酒を進ませるので、結果オーライ。
スープは、ゴールドラッシュというトウモロコシのポタージュだった。
トウモロコシといいつつ、見た目が緑なことに驚いたが、緑のソースは小松菜だそうだ。
スープはトウモロコシを加糖せずに仕上げたらしいのだが、とても甘い。
スプーンの上には生のトウモロコシが添えられている。
甘くて瑞々しい。
果物、特にベリー類と間違いそうなほどだ。
次は冷たい一皿。
塩釜で水揚げされたメバチマグロと香味野菜のガトー仕立て。
鮪にはほぼ味を加えず引き立てる程度の酸味と辛味。
パンチが欲しいときは、皿の縁に添えられている黒七味を付ける。
温かい魚介料理。
三陸の海で穫れたカサゴと宗谷岬のホタテのグリエ、舞茸の餡仕立て。
シンプルに仕上げてあるカサゴ。
餡の出汁に舞茸の香りが移って、うっとりとする味。
次はお肉。
福島県石川町の鈴木ファームの蜂蜜牛のフィレ肉。
飼料の他に蜂蜜も与えて育てているそうだが、お肉がとても柔らかい!
隠し包丁が絶妙なのかもしれないが、口に入れるとほどける。かなり美味しいお肉だ。
添えられている西京味噌のソースと素焼きの野菜も、これだけで独立させても一皿として成り立つ美味しさだ。
締めは伊達鶏のリゾット。
お米は会津のコシヒカリで、銀座久兵衛と同じお米だそうだ。
オリーブオイルとバジルの香りをたっぷりと含んでいる。
隣りにある小さな黒い器の中身は山形のダシで、混ぜても美味しいと言われたが箸休めにして食べた。
上にはバジルを揚げたものとチーズを焼いたものが乗っている。
デザートは、アールグレイとジャスミンの香りのクレームブリュレ。
軽やかな甘さのアイスと、香り豊かなクレームブリュレでほっと一息ついた。
夜食
夜の9時過ぎ、部屋の扉がゴトッと鳴る。
扉の内側にある小箱からの音だ。
開けると塗りの小箱が入っていて、その中にあるのはおにぎり!
少し前にたっぷり夕食を頂いたのに、おにぎりがまだ温かいので食欲をそそられて食べてしまう。
ご飯が口の中でホロリと解けて、日本人に生まれて良かった!と天に感謝したくなる味。
2日目の夕食
2泊目の夜。
連泊で不安なのは、ご飯が代わり映えしなかったらどうしようということ。
ホテリ・アアルトでは渡されるメニューに日付が入っているため、毎日内容が違っていそうだと予想するも、実際見てみないと分からないのでドキドキしていた。
けれども、そんな心配は一切無用の心遣いで、2日目も美味しい夕食をいただくことができた。
ディナー
昨日の八丁味噌の記憶があるので、お酒は日本酒を選ぶ。
この日も一皿目は五品乗った長いお皿が出てきた。
右から、初物サンマのマリネ。
もってのほかという食用菊がサンマの下に敷かれている。
サンマは酢で軽く締めてられており、ツーンとする感じは全くなくて食べやすい。
右から二番目は桜肉のロースト。
昨日はタルタルで出てきた馬肉が、今日はローストされている。
フィレ肉はとても柔らかく、生七味のソースとえごまの葉っぱの香りを感じながら、肉の旨味を堪能できた。
楊枝が突き刺さっているのは、秋元さんという方が育てたしらかわブラックという豚肉のソースカツだ。
ソースカツは福島のB級グルメだそうだ。
B級グルメと言われると、ソースをたっぷり浸けるイメージがあるが、甘味のあるソースをほんの少しだけ付けている。
肉の味を邪魔せずに引き立てている。
一番左の皿は、スクランブルエッグにイクラが乗ったもの。
甘く仕立てられたスクランブルエッグに、イクラの塩味がアクセントとなっている。
左から二番目は、勿来沖で穫れたメヒカリのフリットだ。
ふっくらと口の中でほどけるメヒカリに、たくさんの香辛料が使われて複雑な香りのケチャップが美味しい。
そして、スープ。
昨日はポタージュスープだったけれど、今日は打って変わって和風の仕立て。
会津の郷土料理こづゆを、レモンオイルで洋風に仕立てたのだそうだ。
椎茸、ニンジン、ヒメタケ、ゴボウ、こんにゃく、お麩と具沢山!
帆立の出汁で優しく煮込まれている。
次は伊達鶏と高原キャベツのミルフィーユ。
キャベツと鶏のミルフィーユ自体は薄目の味付けで、ソースを楽しむようになっている。
手前の黒胡椒が効いたクリームソースと、奥の醤油のソースのそれぞれの味で雰囲気が変わる。
魚料理は、北欧のアトランティックサーモンと北米のオマール海老のムニエル。
福島の地元の食材が中心に出てくるので、海外産の登場を珍しく感じた。
ぷりぷりの海老と香ばしく焼かれたサーモンの上に乗るのは、みじん切りにした郡山の小田原屋のお漬物をオリーブオイルで和えたソース。
このソースが美味しくて、これだけでも日本酒が進む。
お肉は、天栄村のいけだファームの放牧牛。
ロース肉を焼いたものだ。
昨日のお肉は柔らかかったが、今日のお肉は噛み締め系。
じわじわと美味しい。
素焼きの野菜が一つ一つの味が際立って素敵。
締めはかき揚げ丼!
白ワインで炊かれたご飯に、スズキと大葉のかき揚げが乗っている。
突き刺さっているスポイトには出汁が入っていて、固めに炊かれたご飯が出しの水分で食べやすくなった。
かき揚げは大葉の香りが至福!
デザートは福島の桃!桃尽くし!
桃のコンポートと桃のジュレと桃のシャーベット。
黄金桃と暁星のコンビは文句なく美味しい。
今日もハーブティーと一緒にいただいてディナーを締めくくった。
夜食
2日目の夜も、9時を過ぎたあたりで、扉付近からゴトッと聞こえる。
夕飯の余韻が残っていてお腹が空いているわけではないが、心が沸き立つ。
細かく刻まれたお漬物が混ざったおにぎりだ!
やはり温かいご飯が嬉しくて、届いてすぐに美味しく頂いた。
アアルトのご飯の感想
ホテリ・アアルトの食事は、地元の美味しい食材、天の恵みをいただく時間だ。
アアルトの食事をいただくと、ほっこりと優しい気持ちになることができる。
今回は2連泊だが、食材は同じものが使われていても、趣の違う調理をしていただいていたので、それぞれ新しい気持ちで2日とも楽しめた。
いわゆる「美食のオーベルジュ」的なものを期待すると、期待外れに終わるかもしれない。
シェフの哲学が込められたコース料理というよりは、地元の食材をあまり手を加えずに美味しさを引き立てるだけに留めた料理だからだ。
私は、シェフの思いが込められた、食べる側にもある種の読み取る気概が求められるような料理も好きだが、ホテリ・アアルトに求めるものは、たくさんの木々に囲まれながら温泉で温まる、心も体も休まる時間だ。
その時間を過ごすには、あまり手が加わっていない、肩肘張らずに楽しめるアアルトの食事はぴったりだ。
美味しい食材を生み出してくれた自然と、その自然の力を活かして育ててくれた農家の方、畜産業の方に感謝したくなる、そういう料理がアアルトではいただける。
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