部下が全員働くママになったら、私の残業時間が減ったという話
私はかつて、私以外の同じ部署のメンバーが全員ワーキングマザーで時短勤務、という環境で働いた経験がある。
私が課長でメンバーが2人という、こじんまりとした部署で、従業員100人程度の会社の経理を担当していた。
大変なこともあったが、私の仕事観を根こそぎ覆してくれた、とても素晴らしい経験だった。
出勤の不安定さとその対策
働くママと一緒に仕事をする際に、まず頭に入れて置くべき点がある。
それは、出勤が不安定ということだ。
子供は常に体調を崩すと覚悟した
私自身には子供がいない。
なので、子供があんなにも熱を出すとは知らなかった。
子供が体調を崩す理由は山ほどある。
インフルエンザに食中毒。季節の変わり目。
溶連菌という言葉はこの時初めて聞いた。
メンバー2人ともが突然休み、一人でぽつんと呆然と始業時間を迎えたこともある。
対策は、スマホで
この問題には対応方法があった。
メンバーが私たち3人のLINEのグループを作ってくれたのだ。
子供の具合が悪くなると、休日でも夜でもその段階で「長男、発熱中」などとLINEに書き込んでくれた。
朝になって突然子供の具合が悪くなったときは、朝の5時や6時の早い時点でそのことを知らせてくれた。
出社の状況が早い段階で分かると、仕事の調整が余裕を持ってできる。
もう一人のメンバーも、書き込みを見て、もしものときは残業できるように調整したりしてくれた。
そしてこれを続けているうちに、○○さん家のハナコちゃん(仮名)は三連休明けは体調を崩しやすい、といった傾向が見えてくるようになった。
そうすると、連休前には前倒しで仕事を片付けておくなどの事前の準備ができるようになってくる。
こうして、突発的なお休みがあっても、仕事に影響が出ない体制が作られていった。
働くママのチームの特色
それまでも課長や部長としてチームを任されたことはあったが、働くママのチームは、それまでのチームとは明らかに違う特色があった。
スピードがとにかく速い
働くママは、朝、無事に会社に来れたとしても、いつ保育園から呼び出しが掛かるか分からない。
明日も会社に来られるか分からない。
そのため、明日やればいい仕事でも先送りをしない。
毎日毎日、全力で仕事を進めてくれた。
業務の改善案が大量にあがってくる
業務の流れでやりにくい部分や無駄な部分があっても、なんとなく続けているうちに慣れてしまう、ということは多いだろう。
しかし、働くママには無駄な作業をしている暇はない。
小さなことから大きなことまで、「ここをこう変えたいです!」と具体的な提案が毎日のようにあがってきた。
メンバーが二人とも同じ目的を持っているのも大きかっただろう。
少しでも気になる点があると、二人で新しい案を考え出し、すぐに試して、効果があると分かったら即座に私のところに「こういう風に変えたい」と言ってくる。
どちらか一人が、「他にやるべきことがある」や「今のままでも何とかなる」など言っていたら、ここまで早く、検討・検証・実装のサイクルが回らなかっただろう。
段取りをつけるのがうまい
家にいる間はずっと、子供を見ながら家事をする、というマルチタスクに追われているせいかはわからないが、複数のやるべきことが重なったときや、突然、急ぎの仕事が入った時の段取りのつけ方がとてもうまかった。
今やっている仕事を終わらせるためにあとどれくらい時間が必要かを常に意識しているため、締切りに向けての作業の段取りを早く正確につけることができる。
仕事が期限まで終わらなそうな場合は早めにヘルプをあげてくれるので、とても安心して仕事を任せることができた。
課長がボトルネックになった
働くママたちが、ものすごいスピードで仕事をし、ものすごいスピードで業務フローを改善することにより更にスピードが上がったため、従来通りの仕事をしていた私がボトルネックとなってしまった。
私の目の前に、チェックすべき資料や、承認すべき書類が積みあがる。
このままではいけないと、彼女たちに突き上げられる形で、私も仕事の仕方を変えるべく動くことになった。
長時間の会議は廃止し、短い打合せを多くするようにした
週に一度の30分の課会といった課内の定例の会議は廃止した。
会議室までの移動の時間すらもったいない。
その代わり、毎朝5分程度の朝会を自席でするようになった。
朝の課会は、今日中にこの仕事はここまで進めたいが問題なく終了するか、といったスケジュールの確認をする。
それ以外に、課内で共有するべき会社からのお知らせ等もこの時間に行った。
そして帰り際には、その日の進捗の報告をもらった。
もちろん日報などはいらない。
「請求書の入力が途中です。あと3時間あれば終わります」という感じに、口頭で数秒で済む程度でいい。
仕事の進み具合を皆で共有していることで、突発的に休むことになっても、業務の引き継ぎがスムーズだった。
自分たちが最低限やることを一つに決めた
働くママ達は時短勤務で、基本的に残業はできない。
1日にできる仕事量に限りがあるので、業務の優先順位を明確にしないと、何もかも半端になってしまう。
そこで、経理課が何を置いてでもやらなくてはいけない、優先順位が一番高い仕事を明確にした。
それは「会社のお金の流れを止めない」ということだった。
メンバーには、月に数日ある決められた支払日に、必ず支払処理を間に合わせることをお願いした。
その代わり、それ以外の業務は全部後回しで構わない。
保育園の面談など、事前に日程が分かり変更がきくものについては、支払処理と重ならないように調整してもらった。
逆に言うと、支払処理に影響がなければ、遅刻・早退・お休みをいくらすることになっても全く問題がないと割り切った。
この方針を役員(経理部長でもある)にも理解してもらうことができたので、安心して、割り切ることができた。
しかし、実際のところ、優先順位を明確にしたことで、業務の段取り力が格段と高まり、支払以外の業務も滞ることなく進んでいった。
他部署からの書類作成は厳選するようにした
経理課という職種柄、他部署から「こういうデータが欲しい」と要望されることが多い。
毎月定期的に送っているものもあれば、突発的に頼まれるものもある。
これを整理した。
毎月定期的に送っているものについては、「そのデータは何に使っていますか?」と送り先の担当者に聞いてみた。
「前は使っていたけれど、今は使っていない」というものは廃止した。
「使ったり使わなかったりだけど、念のために毎月もらっている」というものについては、使うときにその都度依頼してもらうことにした。
驚いたことに半分以上のデータが、「今は使っていないけれど、経理が送ってくるから受け取っている」というものだった。
担当者が代わったり部署の業務が代わったりして、いらなくなっていたのだ。
使われているデータや、他部署から突発的に要望されるデータについては、データのどの部分をどういう形で利用するのかを詳細に確認した。
それに基づいて、システムから吐き出したローデータをベースに必要最小限な加工のみして渡すようにした。
意味のない即日の支払依頼を、やめるようにお願いした
当時、よく営業部から受けた依頼に「急ぎでこれの支払いをお願いします」というものがあった。
急ぎの理由を営業部に聞いてみると、「その場のノリでつい言ってしまった」や「その方が親切かと思って」など、根拠のないことが多かった。
こちらのミスに絡む支払いはもちろん即日に払うし、1日でも早くお金を受け取る必要のある中小企業もあるかもしれない。
しかし、年商1000億円の会社に30万円の支払いを1ヶ月前倒しで行うことに、本当に意味があるのか。
先方はそれを望んでいるのか。
そういったことも踏まえて、支払いは基本的に決められた支払いサイトに合わせて交渉するように営業部にお願いをした。
半年が経過して起きたこと
私の残業時間が、月間70時間から月間10時間以下に減った
彼女たちは相変わらず、すごいスピードで仕事をし続け、業務改善をし続けた。
それに追いつくため、私も仕事について見直し続けた。
そうすると、それまでは早くても20時、基本は終電近くで帰っていた私の残業時間がどんどん減り始め、ついに定時で帰れる日が多い状態になった。
新しい仕事もこの間に増えていったが、それでも残業時間は減っていった。
私の残業が多かったのは、残業することを自分に許していたからだった
それまでの私は、仕事が増えると、増えた分を残業でカバーしていた。
何かを減らさなくてはと思っても、「業務を減らすという仕事」をする時間がない、と考えていた。
これが大きな間違いだったのだ。
「残業ができない」という前提で働く彼女たちを見て、自分の仕事の段取りの組み方がどれだけ甘かったかを理解した。
仕事の全体像を把握し、本気で仕事に優先順位をつけ、本気で無駄を探し、本気で無駄やダブりを無くすことに取り組めば、アウトプットの質を減らすことなく業務量を減らすことができるのだ。
それまでは、仕事に本気で取り組むのを回避して、その代償として残業時間を増やしていたに過ぎなかった。
残業時間が減ることで、食生活が整い、睡眠時間も確保できるようになった。
そうすると風邪を引かなくなった。
日々の体調もいいので仕事の効率も上がるという好循環が起きた。
残業を減らしたいなら、働くママを見習おう!
こういうわけで、「仕事が多いから残業が多い」という考えをしなくなった。
残業を減らしたかったら、自分が帰る時間を決めて、それに合わせて業務設計をすればいいのだ。
やり始めた当初は、一瞬残業時間が増えることもあるだろう。
でも愚直に取り組み続けていれば、残業時間は減らすことができる。
「残業の常連」と言われていた私でさえ残業時間がなくなったのだから、そうに違いない。
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