ダメな子と評価されていた部下が、強みを伸ばして頼れる人に進化した話
部下の強みを活かすマネジメントを、やってみたい!と言う人は多いが、「実際どうすればいいか分からない」という声も聞く。
そして「部下の強みを活かしています!」と言う人もいるが、実は活かしているつもりで潰していることがある。
強みを活かすというのはこういうことだと、私自身も深く感じた経験がある。
とある会社であったこと
「親会社の事業の一部を切り離して一つの会社として独立することになったから、その新しく作る会社の管理部門の立ち上げをしてくれ」というのが、私がその会社に入社したときのミッションだった。
親会社の経理部でその事業の担当をしていたスタッフと私で、新しい会社の経理部を立ち上げた。
面倒くさい事業譲渡が絡む手続きを終え、半年が過ぎた頃には落ち着いた日常生活が送れるようになっていた。
最低の評価をくらった部下
そんなある日。
半年に一度の管理職会議で、私の部下がやり玉にあがった。
とある部署の部長は言った。
「経理のあの子、すぐにうちに質問に来てうるさいんだけど何とかならない?とにかく、うちの部署にはもう来させないでほしい」
違う部署の部長も言った。
「うちにもよく来るんだよね。邪魔だから、うちも立ち入り禁止でよろしく。」
他の部の部長も言った。
「うちも困ってるんだよね。ほんとに何とかして欲しい。」
私の上司に当たる役員も言った。
「皆、彼女には迷惑しているから、もう質問させないように、ちゃんと見張っていてくれ」
そんな部下に私は言った
全ての部署から苦言を受けた私は、会議終了後、すぐにその部下を別室に呼び出した。
私が管理職会議に出ていたことを知っている彼女は、不安そうな顔でやってきた。
私は言った。
「皆があなたのことを、すぐに質問に来るって言ってたよ!
すごくいいね。この先もどんどん質問しよう!」
彼女はほっとした顔で嬉しそうに「はい!!!」と答えた。
他部署の部長達が聞いたら怒り狂いそうではあるが、確かに私はそう言った。
なぜ彼女の質問は嫌がられるのか
そうは言ったが、彼女がそのまま質問し続けたら、社内中に迷惑を掛けまくるだけだ。
彼女自身の評価も下がり続ける。
もちろん対策は取った。
彼女が質問に立ち上がったら、私もその後ろを付いていき、話に参加した。
私の電話中に彼女が質問に行ったら、電話を早めに切り上げてでも追いかけた。
私の離席中に彼女が質問に行っていたら、その部署にお詫びに行き、何を質問していたかを確認した。
本当に彼女はよく質問に行き、おかげで一週間も経たずに状況が見えた。
この会社は製造工程が特殊な商品を扱っている。
ところが、彼女はその製造工程をちゃんと理解していなかった。
そのために初歩的なことやトンチンカンなことを聞きまくっていた。
基礎的な知識がないため回答を理解することもできず、何度も同じ説明を求めることに他部署の人はイライラしていた。
なるほど。
これは完全に私の落ち度だ。
彼女は親会社時代からこの商品を扱っていたため、基本を理解していると思いこんでいた。
しかし親会社は「女の子は言われたことだけやっていればいい」という考えのため、女性社員である彼女に商品知識を全く教えていなかった。
作業自体は親会社時代からやっていたから、形だけはできる。
でも本質を理解していないため、質問だらけだし、ミスも多い。
私が彼女の知識レベルを確認しないまま仕事を任せていたことが、彼女の質問が嫌がられる原因だった。
その後
原因がわかったら、あとは対処をするだけだ。
彼女に商品知識を教え、製造工程を見学に行った。
彼女自身も基本を理解できることが楽しいらしく、イキイキとしはじめた。
ついに関連する法律についても自主的に学び始めた。
半年後
半年後、管理職会議が行われた。
とある部署の部長が言った。
「そういえば、最近あの子、質問に来なくなったね」
他の部署の部長たちも「うちも」「うちも」と声を揃える。
ところが実際はそんなことはなく、彼女は質問しまくっている。
けれども彼女の理解が進んだために問われる方のストレスがなくなり、質問が減ったと感じているようだった。
更に半年後
更に半年が経ち、管理職会議が行われた。
とある部署の部長が言った。
「経理のあの子いいね。うちの見積もりのミスを発見してくれて助かったよ」
違う部署の部長も言った。
「業者からの請求書にミスがあったのを見つけてくれたから、余計な支払いをしなくて済んだよ」
私の上司に当たる役員も言った。
「彼女、急成長したね!質問ばっかりしていた1年前はどうなるかと思ったけど!」
この1年で彼女の事業への理解が進み、質問内容がイレギュラー事項に限られるようになっていた。
通常と違う事象を見逃さずに即座に質問をするおかげで、ミスを早期に見つけることができるようになったのだった。
彼女の評価がこの1年で、「仕事の邪魔をする人」から「頼れる人」に変わった。
この後、年収がぐっと上がった査定を見た彼女は、頬を紅潮させて言った。
「これからも気になることがあったら、どんどん質問しに行きます!」
強みとは何か
なぜあの日、私は上司からの指示を無視して、「どんどん質問しよう!」と彼女に言ったのか。
なぜならば、それが彼女の強みと感じたからだ。
他の人達は、彼女が質問しまくることを彼女の欠点と考えて、止めさせるように言った。
でも、私には強みにしか見えなかった。
強みの定義
一般的に、強みと弱みや欠点について、このように考えられている。
一般的な定義
・強み:良い結果を生む行動
・弱み:困った結果を生む行動
これは間違ってはいないが、私はもう一つ違う軸もあると感じている。
私の定義
・強み:やるなと言われてもやってしまうこと
・弱み:やれと言われてもやることができないこと
例えば、先程の話でいうと、私は彼女に「他部署に質問に行ってきて」なんて一言も言ったことがない。
事務作業をしていると、作業中に手を止めて、立ち上がるのはとても面倒だ。
それなのに彼女は面倒がるどころか、積極的に質問に行く。
これは私の定義では強みだ。
周囲を困らせるといった結果を一般的な定義に当てはめると弱みだが、私から見たら強みなのだ。
強みを潰すような指示はしたくない。
だから、彼女に「もっと質問しよう!」と言ったのだ。
困った強みの問題点と解消法
ただ、彼女の強みが他部署に迷惑を掛けていたのは事実だ。
強みに基づく行動が問題を起こすとき、問題なのは行動そのものではなく、行動の内容や質であることが多い。
例えば、私には、インターネット検索をしていると、目的を忘れて1時間以上ネットサーフィンをするという欠点があるが、検索をすること自体は問題ではない。
問題なのは、必要のない内容をダラダラとした質の低さで検索し続けることである。
もし、若い社員にセクハラ発言をしまくる上司がいたとしたら、社員とコミュニケーションを取ろうとする行動は問題ではないのだが、自分に文句を言えなさそうな若い社員を狙い撃ちにするという行動の内容と、掛ける言葉の品の無さという質が問題なのである。
(なので、「コミュニケーションの一環だから気にするな!」という助言には、問題はそこじゃないと声を大にして訴えたい)
先述の彼女の場合にも、強みが困った結果を生んでいたが、彼女の知識レベルが上がることにより質問の内容と質が変化した。
そうしたところ、弱み化していた強みが、無事に本来の強みへと生まれ変わり、良い結果を生むようになったのである。
強みのマトリクス
ここまでの話をまとめて、図にするとこうなる。
やるなと言ってもやってしまうことが、良い結果を生んでいるのなら、それはどんどん伸ばす分野だ。
やれと言われてもできないし、やっても良い結果を産まないのなら、それはやる必要のないことだ。
やれと言われてもできないが、渋々やったらうまくいった場合。
やっていて楽しさが出てきたら、埋もれていた潜在的な強みの場合がある。
しかし、疲れたり、辛くなるのであれば、やはりそれは弱みだ。
無理はしないで諦めていい。
そして、やるなと言われてもやってしまうことが、困った結果を生んでいる場合。
このときは、行動の内容と質を振り返るといい。
内容と質を変えることで、自他ともに認める自分の強みへと進化していくのだ。
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