守るべきは立場の弱い人。そして守るとは一人にしないこと。
かつて人材派遣会社に勤務していた。
大手の、主に事務職を派遣する派遣会社だ。
その会社で言われていたことがある。
「トラブルがあったときは、派遣スタッフさんを守ること」
「自社の名誉ではなく、クライアントの派遣先会社でもなく、派遣スタッフの方を守りなさい」
それが会社全体の方針だった。
守るべきは立場の弱い人
派遣スタッフを守る理由は、派遣会社、派遣先の会社、派遣スタッフの3者のうち、一番弱いのは派遣スタッフだからだ。
派遣会社と派遣先の会社は法人という組織であるが、派遣スタッフは個人である。
組織というものは、それだけで強い。
複数の人が集まっているから、知恵もノウハウも一個人より豊富だ。
ある程度の規模の会社であれば、顧問弁護士もいるだろう。
そして、派遣会社や派遣先の会社の担当者にとってトラブル処理は「仕事」であるが、派遣スタッフの方にとっては「私事」である。
仕事として一歩距離を置いて対応するのと、自らのこととして対応するのでは、後者の負担の方が果てしなく大きい。
派遣会社の名誉が毀損しても、その後の努力で挽回できるであろう。
挽回できなかったとしても、社員は新天地で暮らしていけるだろう。
クライアントの派遣先の会社から契約を切られても、違うクライアントを開拓すればいい。
派遣先の会社にしても、違う派遣会社を探せばいい話だ。
だが、派遣スタッフの方は違う。
もし名誉が毀損されたら、それは個人の尊厳にダイレクトに関わるものとなる。
契約を切られたら、すぐに生活が不安定になる。
だから、トラブルが起きたら、派遣スタッフを守りなさい。
一番弱い立場の人を、私たちは守りましょう。
あの会社にいた8年間、ずっとそう聞かされ続けた。
部下を守ること
上記の会社を退職してからも、「一番弱い立場の人を守りましょう」の教えは私の中に残っていた。
この教えがあるから、管理職になってからは「部下を守る」という思いに繋がった。
会社の中では、役職が下の人の方が立場は弱い。
管理職の言うことと部下の言うことが食い違った場合、上層部には管理職の意見の方が信頼されがちだ。
会社という組織の中では、管理職の方がより「会社」に近い存在と見なされる。
自分のことを考えても、見知らぬ他人より、自分に近くにいる人に肩入れをしたくなる。
自分に近い存在の方が可愛く思えるのは個人であれ法人であれ同じであるから、管理職の方がより会社に守られる可能性が高い。
だからこそ、管理職として、部下を守りたいと思う。
では、「守る」とはどういうことだろうか。
「守る」とは一人にしないこと
「部下を守る」と聞いて、どういう印象を受けるだろうか。
部下の失敗をかばう?
自分が犠牲になって部下の面子を立てる?
手取り足取りで部下の面倒をみる?
こんなことをしようとは全く思っていない。
心がけているのは、部下を一人にしないこと、ただそれだけだ。
部下が悩んだり迷ったりした時に、声を掛けてもらえる存在でいたい。
そのために、感情をニュートラルに保つようにする。
部下に指示をした時は、その結果に対する責任は全部自分が引き受ける。
最悪な結果にならないように、要所では確認を入れる。
それでも結果が望ましいものにならなかったときは、自分の指示と経過確認に難があったことを認める。
部下が指示外のことをして望ましくないことが起きても、共に解決を目指したい。
迷惑をかけた相手には、私が謝る。
(余談だが、心あるメンバーなら、上司が自分のために頭を下げているところを見ることは、自分が怒られるより堪えるようだ。
何でこんなことをしたんだと怒るより、怒らずに頭を下げる私の姿を見せるだけの方が、次から気をつけるようになる。)
「部下がどこにいても、決して梯子を外さない」
これをいつも心がけている。
人が力を発揮できる時
人が力を発揮できるのは、何があっても見捨てられないという安心感があるときだ。
孤独をバネにして飛躍することもあるが、それは肩に力が入った一時的な飛躍で、いつまでも満たされない苦しさが伴うと感じている。
思う存分自分の実力を発揮できるのは、何があっても一人にならないという安心感がある時だ。
立場が弱い人こそ、一人にしたくない。
一人で戦っていると思わせたくない。
そして、私が部下の隣にいるとき、私の隣には部下がいる。
私も、一人ではないのだ。
それが私の力にもなる。
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